第9回1000字小説バトル
Entry5
吸いこまれそうな暗闇をクリスはじっと見つめていた。 窓の外には広大な宇宙が広がっており、彼女はじっと一点だけを見 つめ続けている。 多分、彼女の視線の先には地球があるのだろう。いや、この言い方 は正しくない。 正確に言うのなら、地球があった場所を見ているのだ。もう、銀河 の何処にも存在しない星を探して。 二日間何もせず、ただ宇宙だけを見つめるその後姿をそっと見守り ながら、僕は一つの決意を固めていた。 「星にも寿命がある。そして、寿命が尽きれば死んでしまう」 僕の言葉を聞いているのかいないのか、クリスはじっと窓の外を 見つめたまま動かない。だが、僕は気にせず話を続けた。 「当然、地球にも終わりの日が来る事は分かっていた。脱出の準備 も出来ており、後は宇宙を放浪しながら第二の地球となる星を探す だけだった。まだ移住可能な星は見つかってないけど、宇宙は広い。 広さの分だけ可能性があり、それは決して0じゃない。希望はあっ た。だけど、地球が消滅した時、地球脱出船団の母船で事故――本 当は地球のあった場所から離れる事を嫌った人達による集団自殺だ けど――が起こった。そして、運良く脱出できたのはこの一隻だけ」 「私達だけが生き残った……多分、人類の最後の生き残り」 窓に映ったクリスの目が僕を見つめながら、そう呟いた。僕はそ の言葉に頷いて、 「そう、多分僕達が最後の人類。二人だけど、幸い男と女。そう、 神は再びアダムとイブを遣わしたんだ」 「……アダムとイブ?」 「そう、アダムとイブ。僕達が始まりとなって、人類を復興させよ う」 「なんの為に?」 「人類の為に」 「人類なんて、私達二人しかいないじゃないの」 苦笑気味にクリスが呟く。 「それはプロポーズ、かしら?」 「うん。そうとってもらってもいいよ」 少しだけ、明るさの戻った声に僕は顔を赤くしながら、大きく頷 いて返事を返した。なんといっても、プロポーズなんて初めてだし、 クリスみたいな美人にするんだから仕方がない。 僕の言葉にクリスは少し考えてから、 「……そうね。貴方がそれを望むなら……」 「本当に?」 「ええ、もちろん。……ただし」 言葉を切ると、クリスはゆっくりと振りかえった。 「私……いや、俺が男でもいいのなら」 久々に見たクリスの顔には、うっすらと髭が生えていた。
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