インディーズバトルマガジン QBOOKS

第9回1000字小説バトル
Entry7

グリーン・アスパラガス

作者 : たみか
Website : http://www4.justnet.ne.jp/~tamika/
文字数 : 約850字
 歩美は、満員電車が嫌いだ。アスパラ農家の実家を飛び出して、
意気込んで東京に来たワリには、これだけは慣れない。
(もう、せっかく新しいスーツ着てきたのに……!)
 淡いグリーンのスーツにしわをつけないように試行錯誤しながら、
今日も歩美は不満を山積みにして満員電車に揺られていた。
 そんな歩美にお構いなく、満員電車はいつも通り新宿に向かって
いく。歩美は何気なく車内を眺めていたが、ふとひとりのサラリー
マンに目をとめた。
 そのサラリーマンは、朝だというのに手すりにつかまって眠って
いる。顔は青白いし、体はくったりと力無くたわみ、今にもばった
りと崩れ落ちそうだ。
(やだ……これって……ホワイトアスパラ?)
 実家で作っている缶詰を思い出して、歩美は思わず吹き出しそう
になり、慌てて自分の向かいに立っているOLに視線を移した。
 しかし、バッチリ化粧したそのOLの体もくったりしている。電
車のドアに体を預けて、今にもふにゃふにゃと倒れそうだ。
 歩美はきょろきょろと車内を見渡した。あっちのおじさんも、こ
の高校生も、そこのお姉さんも……みんな青白い顔で、くったりと
電車に揺られている。
 そのうちに電車の屋根がぱっくり開いて、ひょいっと箸でつまま
れちゃうんじゃないかしら、と考えると、もう歩美は我慢できない。
口を押さえてくすくす笑っていると、歩美の笑い声にあわせるよう
に、電車もゴトン、と身震いした。

「しんじゅくー、しんじゅく、終点です。本日、傘の………」
 次の休みには実家に帰ろうかな、と笑いながら、白いアスパラ
ガスに混じって、一本のグリーン・アスパラガスが電車を降りた。






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