第10回1000字小説バトル
Entry11
風のことで彼女とケンカしたことがあった。 北風は、北へ向かって吹く風なのか、北から吹いてくる風なのか。 僕は前者、あいつは後者で言い争った。他愛ない議題だったが何故 か互いに譲らず、気がつけばカフェテラスの視線を一手に引き受け ていた。結局、あいつのほうが正しかったのだが、今から思えばこ れが最初のキレツだったような気がする。 些細な春のキレツは、季節が移ろう毎に大きくなっていった。木 々の色が変わる頃には、キレツはもうキレツでなくなっていた。秋 の失恋ほど辛いものはないと、どこかの誰かが言ってなかっただろ うか。 僕たちは、距離を置くことにした。なんて都合のいいセリフだろ う。自由な生活を取り戻した僕は、それが勘違いだと気づくのにそ う時間はかからなかった。僕が自由だと思っていたのは、あいつの いない不自由だったのだ。 季節は僕が気づかなくても移ろっていく。先週、木枯しが吹いた そうだ。残念ながら僕はその場に居合わせることができなかったが、 日を追う毎に、北から吹いてくる風は冷たくなっていった。できれ ば気づきたくない、今年の冬。 風の冷たさと、街の喧騒を忘れるために、僕は仕事に集中した。 サンタクロースになれたらと、本気で思った。そして、気づかない フリをしている僕をまるで気にも留めず、十二月は過ぎていった。 北風は、北から寒さを運んでくるから冷たい。南風は、南から暖 かさを運んでくるから暖かい。よく考えればわかることだった。「 ごめん」という言葉を乗せて、僕が風になってあいつのところに飛 んでいこうかと思った。 少し早めのクリスマスカード。僕のところに、“あいつ風”が吹 いてきた。
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