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第10回1000字小説バトル
Entry11

北風

作者 : 林 忠由 [はやしただよし]
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文字数 : 679
 風のことで彼女とケンカしたことがあった。
 北風は、北へ向かって吹く風なのか、北から吹いてくる風なのか。
僕は前者、あいつは後者で言い争った。他愛ない議題だったが何故
か互いに譲らず、気がつけばカフェテラスの視線を一手に引き受け
ていた。結局、あいつのほうが正しかったのだが、今から思えばこ
れが最初のキレツだったような気がする。
 些細な春のキレツは、季節が移ろう毎に大きくなっていった。木
々の色が変わる頃には、キレツはもうキレツでなくなっていた。秋
の失恋ほど辛いものはないと、どこかの誰かが言ってなかっただろ
うか。
 僕たちは、距離を置くことにした。なんて都合のいいセリフだろ
う。自由な生活を取り戻した僕は、それが勘違いだと気づくのにそ
う時間はかからなかった。僕が自由だと思っていたのは、あいつの
いない不自由だったのだ。
 季節は僕が気づかなくても移ろっていく。先週、木枯しが吹いた
そうだ。残念ながら僕はその場に居合わせることができなかったが、
日を追う毎に、北から吹いてくる風は冷たくなっていった。できれ
ば気づきたくない、今年の冬。
 風の冷たさと、街の喧騒を忘れるために、僕は仕事に集中した。
サンタクロースになれたらと、本気で思った。そして、気づかない
フリをしている僕をまるで気にも留めず、十二月は過ぎていった。
 北風は、北から寒さを運んでくるから冷たい。南風は、南から暖
かさを運んでくるから暖かい。よく考えればわかることだった。「
ごめん」という言葉を乗せて、僕が風になってあいつのところに飛
んでいこうかと思った。
 少し早めのクリスマスカード。僕のところに、“あいつ風”が吹
いてきた。






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