第10回1000字小説バトル
Entry12
遺伝子操作により、食物は安く大量に作られる様になった。また 金属や繊維を始めとして、酸素・水といった人間が生きていくうえ に必要な資源までが、新種の微生物により栽培できる様になった。 人口は急激に増加し、地球の殆どの場所に人々が住み、自然は消 えていった。 地球の人類には平和(沈滞)が訪れた。 「教祖様。お教え下さい。人類を全て1/8にすると本当に地球が、 自然が復活するのでしょうか?」 「時間はかかりますが、自然は本来の姿に戻ります。地球の慈愛を 享受する為に我が教団があるのです。信ずる者がいる限り、神のご 加護はあります」 教祖と呼ばれた男は、澄んだ目で続けた。 「それよりも、ドクター杉端の方はどうですか。研究は進んでいま すか?」 「あっ、失礼致しました。その報告に来たのです。機械の設計図は 出来ました」 「それで、機械の方は?」 「はい。博士は、作れないと言って、国に帰ってしまいましたので、 別のチームが作成しております」 「…。それで、設計図だけで作れるのですか?」 「まもなく完成の見込みです」 十年前に杉端の所にやってきた男はこう言った。 「博士、生物を1/8に縮小する機械を作ってほしいのですが、お 願い出来ますか? 資金は望まれるままにご用意致します」 こんな美味い話は滅多にない。物理学の世界的権威であり、しか もあらゆる学問の知識を有する杉端ではあったが、研究費が無尽蔵 に提供されるなどという事は、学者にとって最も嬉しい事だった。 博士は研究に没頭した。どんな使われ方をするか気にはなったが、 興味深いテーマであったし、縮小された動物の生態にも関心がある。 研究の段階で、生物の能力をそのまま残すには、どうしても原子 レベルで、中性子と陽子の距離を短く(密度を高く)する必要があ った。生物を構成する分子(原子)を取り去ったのでは、能力が著 しく変わるからだ。それでは縮小とは呼べない。 だが原子レベルで密度を高くすると、廻りの物質は霞の様に、希 薄な物になってしまう。呼吸さえ、密度の違いにより出来なくなる だろう。 博士は悩んだ。密度を高くする事は可能だが、同時に周りの環境 も全て変える必要がある。…その為の設計図は出来た。 機械は生物も環境も縮小させ、正常に稼動したが、操作員は変化 が把握出来ずに、何度も動かした。 そして、密度の高くなった地球はブラックホールへと変化し、宇 宙を飲み込み始めた。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。