第10回1000字小説バトル
Entry14
最近肥満が気になる営業3年目の天野君。 今日も午前中の外回りを終え一休みしようと、途中で目をつけてお いたチョコレート・パフェの美味しそうなディスプレイが飾ってあ る喫茶店風のお店に入った。 「カランコローン」いまどき珍しい入り口の鈴の音。 それを聞いただけで今にもホイップクリームとチョコレート、そし てバナナのハーモニーが頭を占領してしまいそうな心地よいめまい に襲われた。天野は昼飯を食べに来たのだということをまず自分に 言い聞かせ、クラブ・サンドイッチとコーヒーを注文した。 真の甘党の誇りとして彼のコーヒーはブラックだった。鍵盤を弾く ような仕草で心を落ち着かせる。そして彼の目の前に置かれた、ま るで剣士が戦っているような勇ましさを垣間見せるソードを手にし た勇者サンドイッチ。彼はその勇ましさに反し、あっともいえない ほどの間に天野の胃の中に黒い洪水と共に流し込まれていった。 食べ終わると息を吐きながら食道から胃にかけての道のりを天野は 丁寧に押してマッサージした、まるで勇敢に戦った相手を褒め称え るように。ここで早速のチョコレート・パフェ様の登場を願いたい 気持ちを抑え、勿論まだ満たされていない天野の胃でありながら他 人の胃のような、天野が自分で命名=胃(異)空間、を少しでも満 たすべく、彼はスパゲティー・ミートソースをオーダー。 アルデンテの柔肌とその中心部を覆い隠すミートソースの衣装。 まるで挑発的な服装にいささか困惑した天野は慌ててフォークを振 り乱し、なるべく全てのパスタにソースをあえて何とか冬備えの 出来たワイン色のコートを羽織るスパゲティ嬢にやっと口をつける のだった。そう、口をつけ始めればそれが無くなる早さは口にせず とも分かるだろう。天野はフォークが巻き上げたブラック・ホール を次々と消し去った。お口直しにお冷のいっき。一息つきトイレを 借りて手も綺麗に洗い万全の体制が出来上がった。いよいよ右手を 上げようとした瞬間−彼は左利きなのだけれども−右横に置いたカ バンの中から突如としてテレフォン・コール。「こんな時に」急い でカバンを開いてグチャグチャになった書類の中から携帯電話を取 り出そうと必死だ。 しかし左胸に激痛が走り天野はかすかに左手を挙げ床に伏した。 「チョパ」それを聞いた店員は「チョコレート・パフェですねー」 彼は異空間へと旅立ってしまった。 胃空間は宇宙創造のときのように大きな爆発を起こしていた。
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