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第10回1000字小説バトル
Entry18

本音と建前

作者 : MOMO [もも]
Website : http://www.geocities.co.jp/Bookend/2767
文字数 : 999
 お昼休みの給湯室は、訪れる人もなくしんみりと語るのにいい。
 それが理由なのかどうか、私とアヤはいつもそこでダベるのが日
課となっていた。
 しゅぼっ、とアヤのジッポが小気味のいい音を立てた。程なくし
て広がるタバコの煙。
「あやちゃん、あたしにも1本くれる?」
 しまいかけた箱をまた取り出して、アヤは黙って差し出した。驚
いたような顔をしている。
「ありがと」
 と、1本抜きとって、コンロで火をつける。
「吸わないんだと思ってた」
 ぽつり、とアヤが言う。私は肺いっぱいの煙を吐き出しながら答
える。
「吸わなかったの」
 5年ぶりの1本はやけに喉を灼く。
「彼氏がね。身体に悪いから吸うなって。自分は吸うくせに」
 乾いた笑い声を立ててから後悔する。その矛盾が優しさから来る
のだと思っていた自分の青さがほろ苦い。そんな私を尻目に、アヤ
は
「女にはこうあって欲しいっていう男のエゴだね。でもなんで、彼
氏が居ない時も吸わないの?」
 などと言う。
「さぁ」
 そうすることで、まだ彼を愛している、と思いたかったのだとは
気恥ずかしくて言えない。一瞬、口を開こうとしたかに見えたアヤ
が思いとどまったような顔をした。そのまま、私達はしばらく無言
で紫煙をくゆらせる。
「私は男の趣味に合わせるのはいやだなぁ。誰かを演じてまで好か
れたくない」
 アヤが呟いた。自分に向けられた言葉なのかがつかみきれず、私
は何も言わなかった。

 私達がそんな会話を交わして一月ぐらい経った頃からか、アヤが
給湯室に姿を見せなくなった。部署も違うし、ただ隠れ家を共有し
ていただけだから、どうしたのだろう、と少し思うだけだったのだ
けれど、ある日の夕方、会社の入り口で彼女を見かけた。
「あやちゃん」
 声をかけると、彼女は
「あ・・・」
 と、びくっとしながら振り返った。
「久しぶり。タバコ、いる?」
 あれ以来タバコは切らしたことがない。
「今、いいや」
「そう。最近見ないから、どうしてるかと思って」
 そう言いながら、彼女のそっけなさはどうしたことだろう、と思
案する。
「ごめん、今待ち合わせしてて・・・」
「そっか。じゃ、またね」
 そう言うと、彼女はほっとしたような顔をした。
 立ち去りかけて何気なく振り返ると、私の元カレが、彼女に歩み
寄っていくところだった。

「なんだ、そういうことか」
 私はタバコを取り出し、呟いた。






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