第10回1000字小説バトル
Entry18
お昼休みの給湯室は、訪れる人もなくしんみりと語るのにいい。 それが理由なのかどうか、私とアヤはいつもそこでダベるのが日 課となっていた。 しゅぼっ、とアヤのジッポが小気味のいい音を立てた。程なくし て広がるタバコの煙。 「あやちゃん、あたしにも1本くれる?」 しまいかけた箱をまた取り出して、アヤは黙って差し出した。驚 いたような顔をしている。 「ありがと」 と、1本抜きとって、コンロで火をつける。 「吸わないんだと思ってた」 ぽつり、とアヤが言う。私は肺いっぱいの煙を吐き出しながら答 える。 「吸わなかったの」 5年ぶりの1本はやけに喉を灼く。 「彼氏がね。身体に悪いから吸うなって。自分は吸うくせに」 乾いた笑い声を立ててから後悔する。その矛盾が優しさから来る のだと思っていた自分の青さがほろ苦い。そんな私を尻目に、アヤ は 「女にはこうあって欲しいっていう男のエゴだね。でもなんで、彼 氏が居ない時も吸わないの?」 などと言う。 「さぁ」 そうすることで、まだ彼を愛している、と思いたかったのだとは 気恥ずかしくて言えない。一瞬、口を開こうとしたかに見えたアヤ が思いとどまったような顔をした。そのまま、私達はしばらく無言 で紫煙をくゆらせる。 「私は男の趣味に合わせるのはいやだなぁ。誰かを演じてまで好か れたくない」 アヤが呟いた。自分に向けられた言葉なのかがつかみきれず、私 は何も言わなかった。 私達がそんな会話を交わして一月ぐらい経った頃からか、アヤが 給湯室に姿を見せなくなった。部署も違うし、ただ隠れ家を共有し ていただけだから、どうしたのだろう、と少し思うだけだったのだ けれど、ある日の夕方、会社の入り口で彼女を見かけた。 「あやちゃん」 声をかけると、彼女は 「あ・・・」 と、びくっとしながら振り返った。 「久しぶり。タバコ、いる?」 あれ以来タバコは切らしたことがない。 「今、いいや」 「そう。最近見ないから、どうしてるかと思って」 そう言いながら、彼女のそっけなさはどうしたことだろう、と思 案する。 「ごめん、今待ち合わせしてて・・・」 「そっか。じゃ、またね」 そう言うと、彼女はほっとしたような顔をした。 立ち去りかけて何気なく振り返ると、私の元カレが、彼女に歩み 寄っていくところだった。 「なんだ、そういうことか」 私はタバコを取り出し、呟いた。
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