インディーズバトルマガジン QBOOKS

第10回1000字小説バトル
Entry19

思い出パズルの1ピース

作者 : おあしす
Website :
文字数 : 950
 部屋を掃除して見つけたアルバム。
 何気なくひろげたその思い出本の最初のページに貼り付けられた
水着の女性の写真。逆光を浴びて白く輝く、柔らかな波の中に佇み
ながら微笑んでいる彼女は、人に温もりを与えることの喜びを僕に
教えてくれた最初の人。あばらの浮き出た野良犬のように夜を彷徨
い、虚飾の光に覆われた街の中で、夜明けまでの恋愛を求めること
の儚さを教えてくれた人。
 彼女と出会うまではまだ、女の与えてくれるあらゆるモノが、僕
にとっては自動販売機の明かりにたむろする虫の羽のように軽すぎ
て、僕の目の前から飛んで消えていってもその大切さに気づかなか
った。

 
 そう、僕はセックス相手の数を誇るだけのただのガキだったんだ。

 ガキだった僕はマリファナを吸っているぐらいでドラッグの何た
るかを知り尽くした表情を浮かべ、女を泣かせても暴力を振るって
いないだけでフェミニストの鎧を着ていると思っていた。女の数を
こなしてそれだけで年を重ねた気分になって、早朝ラッシュでくた
びれきった中年を仲間と一緒に見下して笑っていた。

 笑っちゃうよ・・・。
 
 
 僕らは大学に入り、仲間との絡まっていた糸は解れた。僕は仲間
の消息を知ろうともせず、新しい舞台で新しい役を演じた。
 世の中の何たるかを悟ったような表情を浮かべて、無理に冷たい
表情を浮かべていた僕がサークルで出会った2つ年上の女性。彼女
の部屋にはじめて行った時
 「臆病な姿を隠そうとしなくて良いんだよ。」
と言われた僕の目から零れた涙を受け入れて一緒に泣いてくれた彼
女。彼女の涙が僕の心を縛っていた冷たい氷の鎖を溶かし、僕は女
性の涙の暖かさを感じ、そして女性の優しさを知った。
 物心が付いた頃母の胸で泣いて以来僕ははじめて他者に涙を見せ、
そしてはじめて他者が愛おしいと思った。

 
 そして僕は彼女を愛し、彼女は僕を愛し、何年か経って二本の糸
は再び解れてバラバラになった・・・。

 アルバムの次のページに挟まった一通の手紙。名残惜しく持って
いた彼女の結婚を伝えるその一枚の紙を、僕は灰皿の上で燃やして
外に出る。

 
 僕は、現在温もりを与えてくれる愛する彼女の下へと向かう。
 
 家に帰ったら今の彼女の写真をアルバムの最初のページに貼るこ
とを心に約束しながら彼女の下へと向かっていく。






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