第10回1000字小説バトル
Entry21
ノブの奴が失恋傷心旅行に行くと言う。気紛れに同行する気にな った。僕は出不精だから旅など滅多にしない。深夜過ぎ上野発の信 越線夜行列車に乗った。どこへ行くのかも僕は知らない。 列車内の蛍光燈は冷たい光を放っていて、窓に映る自分の姿が闇 の中を走る。自分を見つめるという旅の抽象的な意味がこんなとこ ろに具現化していることに気づいて、ちょっとセンチになる。 10日ほど前、直子と関係を持った。 「まわりのこと、全部忘れてほしいときがあるの・・」 あいつとうまくいっていないんだ・・と思い当り、アイコの心を覗 き込むように見つめる僕に、 「今日は、危ない日なの。でも・・」 それ以上を女の子に言わせるほど無粋な奴にはなりたくなかった。 僕は直子のことが好きだ。僕らの中で一番古い知り合いが、僕と 直子だった。ただ、直子にも僕にもそれぞれ別の相手ができたから、 一線は越えないですんできた。今、そのバランスが崩れたらしい。 僕は躊躇した。けれど、意を決し僕は答えた。 「分かった。今夜は俺の女だ」 直子は、何かを振り払うように激しく、僕の背中に爪を立てた。 思わず直子の口を手で塞いでしまうほどに、直子は行為に没頭した。 二人が眠ったのは、空が白みはじめた頃だった。 翌朝、僕は自分に裏切られた気分になってしまった。直子の部屋 を後にしてから自己嫌悪が僕を満たし、自分が不純なものに思われ て吐き気がした。普段、「Sex はコミュニケーションの手段」など とうそぶいていたのに、直子と関係を持ってしまうと自分の心を持 て余すことになった。 それ以来、いつものようにアイコと逢っても自分が汚れているよ うで自信が持てなくなった。アイコも何かを感じている様子だった。 けれど、アイコは何も言わない。 そんなとき、ノブがちょっと旅に出るというので、「付き合うよ」 とデイバックに下着を押し込んで列車に乗った。どこか日常と離れ た場所で、放心状態で居たい気分だった。 列車の窓に自分の姿が映る。ノブは自分の心を見つめているらし い。ワンカップの酒を片手に列車の天井を見つめている。 それぞれに自分を見つめる旅、同行しているけれど、心は別のも のを見ている。男同士だから可能な関係かもしれない。 列車の窓からの光が、刈り取りが終った水田に走る。心のバラン スを取り直すために必要な孤独な時間、それが旅なのだろうと思っ た。
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