インディーズバトルマガジン QBOOKS

第10回1000字小説バトル
Entry25

ウイルス

作者 : 夏蜜柑 [なつみかん]
Website : http://y7.net/u/natsumikan.html
文字数 : 997
 九月に東北地方で見つかった新型のインフルエンザウイルスは、
三か月後には僕らの小学校の三分の一を学級閉鎖に追い込んだ。
「目が充血したり、体に赤い斑点ができていたら、すぐに病院へ行
くこと」
 もう何度も聞かされている説明だ。そしてそれを聞いた教室の僕
らは、慌てて袖を捲ってみたり、お互いの目を覗きこんだりしてふ
ざけ合う。ところが今朝は、先生の説明が終わっても誰一人そんな
素振りを見せなかった。
 その時は気にもとめなかった。でも一時間目が終わった時、僕は
目を疑った。チャイムが鳴って先生が教室を出ていくと、いつもな
ら騒がしくなるはずの教室が静まり返っていたのだ。誰も席を立た
ない。誰も話しかけない。誰も動かない。
 教室を見渡して、僕はぎょっとした。二十三人のまっすぐに黒板
を見つめる顔が、どれも同じだった。

「新型のインフルエンザウイルスが人体に及ぼす影響については未
だはっきりとつかめておらず厚生省では早急に対策を検討しており
……」

 二時間目も、三時間目も、授業が終わって休憩時間になった途端
に、教室はかつて見たことのない静寂に包まれた。この異様としか
思えない光景に僕以外の誰も気づかず、そして僕以外の全員が同じ
顔――粘土で固められた人形のような顔をしていた。四時間目が終
わった時、その無気味な顔が一斉に僕を見た。
 直後、僕は椅子を蹴っていた。足がもつれて倒れそうになったが、
なんとかこらえて教室から走り出た。廊下に出ると、一人が僕の前
に立ちはだかる。
「どけ」
 僕の言葉は、ウイルスに侵された人間には届かないようだ。そし
てその時、僕は見たのだ。やつの虚ろな目が、吸血鬼のように赤く
光っているのを。
 僕はそいつに体当たりを食らわし、全速力でその場から逃げ出し
た。学校を出て近くのコンビニに駆け込むまで、一度も振り返らな
かった。

――二週間前。
「やっぱり無茶だ」
「今更びびってんじゃねーよ」
「この一年半、あいつがおれたちに何をしてきたか思い出してみろ。
このまま九州なんかに転校させて気がすむのかよ」
「だいたい、西原の弱点を教えたのはあんたよ」
「だからそれは幼稚園の頃のことで……」
「清水が赤いコンタクト手に入るってよ」
「っしゃ!」
「嫌なら帰れよ柴田」
「嫌だなんていってないよ」
「田辺! いまおまえ笑ったろ!」
「いいか、十分だ。十分間、ぜったいに表情を変えるな。いいな」
「じゃあ、もう一度。ようい、はじめ!」






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