第10回1000字小説バトル
Entry26
氷の下から発掘されたのは、何万年も前の人間だった。 「これは凄い……」 防寒着に身を包んだ博士が感慨深げに見つめる。 北極圏近くの極寒の気候は、死んだ生物を腐らせず保存する。発 掘された人間も、まるで動き出しそうなほどみずみずしく完全な状 態だった。 「貴様、何をやっている!」 博士は、記録を付けている学生を睨んだ。 「記録は一切残してはならん!」 「え? ですが博士、これは人類の進化を知る上で貴重な資料に… …」 状況が理解しきれない顔で、学生は鉛筆を止める。 「冷凍人間だのマンモスだのの発見例は、お前が知らんだけで山ほ どある。学会で発表しても何にもならんわ!」 「そんな話ほとんど聞いたこと――ま、まさか、裏ルートで売って いたんですか?」 「馬鹿もん! 売るわけがなかろう!」 「ねえ、最近の魚っておいしくなくなったって思わない?」 昼休み、高校の中庭で絵里子と一緒に弁当を食べていた千世さん は、思い出したように尋ねた。 「またわけの分かんないことを、薮から棒に……」 絵里子は、パンをもくらもくら食べる。 「ほら、食べてみて」 千世さんは、自分の弁当箱から鮭のムニエルを取って絵里子に差 し出す。 「……どれ」 ぱくっ。 「相当おいしいと思うけど?」 「そうかなぁ、やっぱり素材の味自体は落ちてるのよねぇ」 「環境変化かなんかじゃない?」 「でも最近は、地上核実験も、メルトダウンもやってないはずだし ねぇ」 「メルトダウンをわざわざやる国もないと思う……」 絵里子はコンビニの袋からパックの牛乳を取り出した。 「ま、ともかく思い過ごしでしょ。そもそも小さい頃と今とじゃ、 好みも違うんじゃない?」 「……私は今も昔も一緒だけど? 豆腐とかフグとか鮎とかタニシ とか」 「魯山人かあんたは!」 牛乳パックにストローを挿しながら、絵里子は苦笑する。 「それでねぇ、一つ仮説を立てたんだ」 「仮説?」 「自然淘汰ってあるでしょ?」 「あるけど……」 「おいしい魚とおいしくない魚がいたら、どっちを食べる?」 「まあ、おいしい方ね」 「そーすると、相対的においしくないものの方が多く生き残るわよ ねぇ」 「はぁ」 牛乳を飲みながら、絵里子は曖昧な返事をした。 「ってことは、時代を経るごとに、生物はおいしくないものだらけ になるわけでしょ。逆に考えると一億年前の貝なんかもう――」 「んな馬鹿な話があるわけないでしょーが!」 「う、うまい……」 「だろ?」
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