インディーズバトルマガジン QBOOKS

第10回1000字小説バトル
Entry29

サガシモノ

作者 : Sagi [さじ]
Website : http://member.nifty.ne.jp/~SAGI/
文字数 : 917
 いつものように街を歩く僕。周りを行き交う人々の中でも、年下
の女性には思わず眼が行ってしまう。今もすれ違った派手めな女性
に気を取られていたんだけど・・・。
「てッ」
 小柄な女性と衝突。その瞬間、イロトリドリのカプセルが僕の中
から飛び出した。跳ね散り転がって行くカプセル達。
「すいません」
 慌ててカプセルを拾う僕。
「ごめんなさい」
 繰り返し彼女もカプセルを追う。
 近くに転がっていた鮮やかなグリーンのカプセルを拾う。その中
にはカート大会で誇らしげな少年の僕が映っていた。確かこれは小
四のとき。上級生に混じって優勝したんだっけ。ピットでは油で汚
れたつなぎの親父が、親指を立て満足そうに笑っていた。
 次のレッドのカプセルには学園祭のライブが映っている。一日中
飽きずに練習したギター。そういえば幼い頃からずっと、何かに熱
中してないと落かつかない感じがしていた。
 オレンジには小学校の緒川先生。先生の優しさに惹かれていたの
は事実だ。もしかするとあれは僕の初恋だったのかもしれない。
 レッドには渡良瀬の花火大会。人ごみの中つないだ女の子の手は
とても暖かった。流れ落ちる花火の残影がきれいだった。
 イエロー。パープル。全てが今の僕を形作っていた。
 グレーのカプセル。去っていく母さんの後姿。まだ幼かった僕の
記憶には、このときの後姿しか残っていない。離婚の真相は知らな
いけど、多分親父の浮気が原因なんだろう。豪胆な性格だった親父
は若いころから良くモテていたようだ。実際、母さんがいなくなっ
てからも何人もの女性が部屋を訪れていた。
 実はこのとき母さんは妊娠していたらしい。そしてもともと体の
弱かった母さんは、女の子を産んですぐ逝ってしまったと聞いた。
それ以来親父は変わった。女性の姿は消え、最近ではめっきり老け
込んだ気がする。そして僕も変わっていた。だから今日も街を歩く。
 最後に残ったのは見覚えのないホワイト。彼女のだろうか?僕が
右手を伸ばしたとき、丁度彼女もそのカプセルを拾うところだった。
その中には一枚の写真。微笑む親父と優しい女性の姿が映っている。
「やっと・・・会えた」
「お兄ちゃん?」
 そしてこのとき、二人の心にニジイロのカプセルが輝きだした。






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