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第10回1000字小説バトル
Entry35

帰らずの館

作者 : 極楽天 [ごくらくてん]
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文字数 : 914
 その建物は、突然住民たちの目の前に姿を現した。
 誰が何のために建て、一体誰が住んでいるのか知る者はいなかっ
た。幽霊が住んでいるのではないか、とか宇宙人の仕業ではないか
といった諸説が飛び交っていたが、真相は明らかになっていなかっ
た。怖くて誰も入ろうとしなかったからだ。あんなところに入るの
は余程の命知らずか、愚か者だろうと近くに住む者は自分は入りた
くないというのを遠回しに口にしていた。
 ある日、各地を旅している男がその地を訪れた。
 彼はこれまで不思議な力によって空中に浮遊したり、一瞬にして
遠くの場所に移動してしまうという経験をしていた。その為、彼は
日頃から自分の力を過信し、自ずから危険な場所に赴く傾向があっ
た。そういうこともあり、住民からその話を聞いた彼は勇んでその
建物に向かって行った。
 周りからの再三の忠告、警告を無視し彼は今ドアの前に立ってい
る。
「・・・・・・ふむ。確かに怪しいな」
 男は深呼吸を一つした。
「よし」
鍵はかかっておらず、簡単に入ることができた。幾分か拍子抜けし
た彼は二歩三歩と歩を進めた。中は真っ暗で物音一つしなかった。
中心くらいまで来て、男は驚愕した。物音がしないのも当然だった。
何もものがないのだ。椅子やテーブル、階段さえもないのだ。
 男は何か嫌なものを感じた。はっきりと何かとは分からなかった
が、それは確実に彼に恐怖をもたらした。
 その時、外から声がした。
「大丈夫ですか、旅のお方」
 男は振り返ろうとしたがそれも叶わなかった。足に得体の知れな
いものがからみついていたのだ。
「来るな。来てはならない」
「しかし・・・・・・」
「いいから来るな」
 悲痛に満ちた男の声は、ゆっくりと住民たちの足を動かした。
 次の日、男の姿はなくなっていた。

「そういうことがあったんだ」
 感心したように男の子は言った。
「ああ、それ以来あそこには誰も近づかなくなったんだ。今考える
と、あのお方が身を挺して我々を守ってくれたのかもしれな・・・
・・・」
 そこまで話すと、少年がもう眠りについていることに気づいた。
父親は微笑みながら、長く伸びた少年の触覚をなでた。

 その館には血のような赤い文字でこう書かれていた。
「どんなゴキブリでもイチコロ! 必ずしとめます」






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