インディーズバトルマガジン QBOOKS

第10回1000字小説バトル
Entry38

花壇

作者 : 佐藤ゆーき [さとうゆーき]
Website : http://www.d2.dion.ne.jp/~syuki
文字数 : 989
大学を卒業して二年。気が付いたら腹が出て来た。高校、大学と陸
上部だった僕はまさか自分の腹が出てくることがあるなんて思って
もみなかった。それでも肥満という程ではなかったし、僕は全体的
にスリムな体型をしていたのでそんなに気にしていなかった。
でもこの夏、大学の陸上部の友人達と海に行った時、片思いだった
マネージャーの娘にこう言われた。
「え〜、それ◯◯君の体じゃないよ〜」
次の日から僕は毎晩仕事が終わってから5kmのジョギングを始めた。

はじめは体が重くてとても続けられる気がしなかったが、少しづつ
体重が減って、腹のまわりが締ってくると反対に走らない方が気持
ち悪いと思うようになった。二ヶ月もするとスピードもどんどん上
がってきてダイエットの為だったジョギングが、市民ロードレース
大会に出場するためのトレーニングに変わっていった。

ある晩、いつも通る郵便局の前の歌壇の縁に大学生位のカップルが
座っていた。こんなところじゃないと夜に二人きりで会えないのか
と気の毒に思ったが、他に誰も歩いている者もいない夜中にいちゃ
ついているカップルの前を一人ではあはあ息を切らせながら通り過
ぎるのは気分の良いものではなかったので帰りはコースを変えた。
それから三日程した晩、また同じ花壇のところにあのカップルが座
っていた。二人の前を僕が通り過ぎた後、笑い声が聞こえた。僕は
とても不愉快になった。それはなにも僕のことを笑ったとは限らな
いのに、僕は心の中で
「ばかやろう。そんな彼氏よりおれの方がいい男だぞ」
と怒鳴った。
それからしばらくはそのカップルを見かけなかったが、二週間程た
ったある晩、同じ場所でその二人に出会った。いや、出会ったとい
うのは適切ではないかもしれない。いつものようにその二人の前を
通り過ぎた。
でもちょっといつもと違う。男の子が泣きながら花壇から立ち上が
って、女の子がその後ろに立って何か声をかけている。走り去る僕
の目にはそれだけが飛び込んできてあっという間に僕の背後に消え
ていった。

それから何日、何週間たってもその二人は花壇のところには現れな
かった。僕はすごく気になってくる。どうしたんだろう。あの二人
は別れてしまったのだろうか。
とにかく僕と花壇、それぞれの世界にそれまでは存在しなかった二
人の恋人が現れてまたどこかへ消えてしまった。その寂しさをそこ
を通り過ぎる度に花壇と僕は確かめあっている。






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