第10回1000字小説バトル
Entry40
朝、出かけに郵便受けを覗くと小さな紙切れが入っている。 「ちょっと会いたいんだけど ちー君より」 と書いてある。 問題は、僕が「ちー君」という人物を知らないことだ。 だいたい「会いたいんだけど」と書いてあるだけで、どうやって 会えばいいのか解らない。 仕方なく出かけることにする。 大学に行くと、麗子に声を掛けられる。 「やあ、元気ー。今日は早いねー、あ、そういえばねえ、ちー君が 探してたよー」 「ちー君って誰?」 「えー? ちー君だよー、ちー君んー」 「誰だよ」 「ちょっと、冗談? あ、あたし授業B棟だから、行かなくちゃ。 ちー君によろしくねー」 喫茶店に行くと吾郎がいて、いつものように一緒にだべっている と、突然思い出したかのように話し出す。 「おう、そういや、ちー君がさあ、おまえのこと探してたぜ」 「だからさあ、ちー君って誰だよ?」 「ははははは」 「おい、なに笑ってんだよ」 「おまえ、冗談きついなあ」 「ちー君なんて、知るわけないだろ」 「ははははは」 「誰だよ」 「ははははははははははっははっははっはあははははははははあは はははあはははははははははははははははははははははははははは はははははははははははははっはははははははははははははははは ははははははははははははっはははっははははははっははは……」 「お、おい……」 「ははははははははははっははっははっはあははははははははあは はははあはははははははははははははははははははははははははは はははははははははははははっはははははははははははははははは ははははははははははははっはははっははははははっははは……」 そこで携帯電話が鳴る。 「もしもし、お母さんだけど元気? あのね、さっきちー君から電 話があってね、あんたに会いたがってたわよ」 「ちー君って誰だよ」 「あらあ、ちー君よ、ちー君。よく家に来たじゃない」 「知らないぞ。名前は? 名字は、名字は何だよ。なんて言うんだ よ?」 「ああ、名字ねえ、えええっと、ほら……なんだったかしら、ほら あ、あんた知ってるでしょ」 「知らないって」 「うそ」 「うそじゃない」 「うそよ。ええっとねえ。なんだったかなあ、(プツ)あ、キャッ チ入っちゃった、じゃ、ちー君にねえ……」 夕方、アパートに戻ると、見知らぬ男がいた。 男は僕の部屋で勝手にお茶を入れ、テレビでニュースを見てい た。 「やあ」 と、その男は言った。 「会いたかったよ」
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