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第10回1000字小説バトル
Entry41

はじめの一歩

作者 : じろう
Website :
文字数 : 1000
 太一はいじめられっこだった。
 そのおどおどした態度から、言われるまで気付かないような右目
尻の横にある小さなほくろまで、太一を作る要素すべてが、いじめ
られる原因だった。

 そして今、太一は昨日までとは違う学校の教室の前に立っている。
 先生が、太一をクラスのみんなに紹介している。太一は顔を上げ
ることが出来ずにいた。胸の鼓動の大きさは頂点を極め、目だけを
きょろきょろ動かしていた。ふと左ひじの上にある小さな黒い点に
目をやった。ほくろにも見えるそれは、鉛筆の芯が刺さった跡だっ
た。おかげで太一は、思い出したくもない前の学校での毎日を思い
出していた。
 先生の声に我に返り、言われるがまま顔を上げるとみんなニヤニ
ヤして自分が馬鹿にされているように感じた。
 そして、言われるがまま廊下よりの空いた席に着き、何事も無か
ったかのように授業は始められた。

 授業が始まってしばらくして、つつつと自分の鼻から鼻水がゆっ
くり流れ出てくるのを感じた。
 昨日の晩、緊張して夜遅くまで起きていたのがたたったのだろう。
 ずずずと鼻をすすってみたけれど、鼻はつまって鼻水は速度を変
えずにゆっくりと流れ出る。太一は、ティッシュを持っている。し
かし鼻をかめないでいた。目立つのが嫌だったのだ。ここで鼻をか
むと、授業が終わって何を言われるか分からない。でもこの鼻水が
垂れているのがばれてもいじめられる。もうこの教室から逃げ出し
たかった。太一は、天井をみて少しでも流れる速度を遅くした。で
もそんな努力を嘲笑うかのように鼻水は太一の上唇にまで達した。
 そんなとき、ちらっと横に目をやって太一の背中が凍り付いた。
  隣の席の男の子がこちらをじーっと見ていたのだ。やはり天井を
見るなんて不自然な行動が、みんなの視線を集めていたのだ。
「もうだめだ。この学校でもいじめられる」
 絶望感で胸がいっぱいになったとき、

 「じゅるじゅる!」

 その男の子がすごい音を立てて鼻をかんだ。太一がビックリする
間もなく、誰かが背中を突ついて、すっとティッシュを差し出し、
その子も負けじと鼻をかんだ。隣の子は横目でこちらを見て、何か
のサインのように軽くウィンクをした。太一は彼らの気持ちが分か
ってしばらく何も出来ずにいたが、そのあと気付いたかのように

  「じゅるじゅるじゅる!」思いっきり鼻をかんだ。


 「なんだこの教室だけ、いやに風邪が流行ってるな」
 先生が、そういってクラスのみんながどっと笑った。
 もちろん太一もその中にいて、腹を抱えて笑った。






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