| # | 題名 | 作者 | 文字数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 約束の丘 | 愛里 | - |
| 2 | 日曜日のひとびと | 鈴木タカオ | 960 |
| 3 | 六畳間の力学 | 大森 柔 | 960 |
| 4 | (作者希望により削除) | - | - |
| 5 | 2001年のスーパーカー | うめぼし | 992 |
| 6 | ドミノは倒れたか? | 吾心 | 793 |
| 7 | 飛行機オタクの女 | 邯鄲虫 | 1000 |
| 8 | 砂漠のパン | ファゼーロ | 999 |
| 9 | 賭け | 綾部正斗 | 819 |
| 10 | 慈善ということ | 工藤裕也 | 977 |
| 11 | 北風 | 林 忠由 | 679 |
| 12 | 1/8計画 | TAKUTO | 1000 |
| 13 | GIRL | 小林知恵 | 916 |
| 14 | チョコ・パフェー | 磊落っく | 998 |
| 15 | 独り言 | 百内亜津治 | 436 |
| 16 | 価値なき存在価値 | Default | 984 |
| 17 | EIGHT DAYS WEEK | DIPSY | 662 |
| 18 | 本音と建前 | MOMO | 999 |
| 19 | 思い出パズルの1ピース | おあしす | 950 |
| 20 | Flight | akoh | 999 |
| 21 | 微妙な関係・リバランス | 小沢 純 | 950 |
| 22 | 小さくなあれ | 君島恒星 | 794 |
| 23 | ヒーロー | 川島圭 | 988 |
| 24 | 風呂場の死体 | 穂積行人 | 約550 |
| 25 | ウイルス | 夏蜜柑 | 997 |
| 26 | 進化の果てに | 羽那沖権八 | 991 |
| 27 | ある夜中に | いか | 650 |
| 28 | 桜唄 | 三月 | 991 |
| 29 | サガシモノ | Sagi | 917 |
| 30 | 冬の大三角形 | 浅間伸 | 735 |
| 31 | 公園デビュー | 鮭二 | 1000 |
| 32 | 回帰 ★ | 越冬こあら | 998 |
| 33 | 冬将軍の到来 | 日向光陰 | 990 |
| 34 | 赤鼻のトナカイ | 狂 | 899 |
| 35 | 帰らずの館 | 極楽天 | 914 |
| 36 | お嬢さんお手をどうぞ | 埜間夏太 | 987 |
| 37 | 桃 | 一之江 | 1000 |
| 38 | 花壇 | 佐藤ゆーき | 989 |
| 39 | 時計蒐集者 | 藤次 | 986 |
| 40 | ちー君 | 逢澤透明 | 993 |
| 41 | はじめの一歩 | じろう | 1000 |
〜君はまだ来ない〜 澄み渡る空、優しい花の香り、限りない海。 今日も変わらず穏やかな日だ。 そう、いつもと変わらないこの景色。 でも 後少しで この景色は全て 灰色に染まる。 …知っているんだ。僕だけが知っているんだ。 〜この世の終わりを〜 そうだ、今日は世界が終わる日なんだ。 この空も花も海も、命を宿す全てが、この世から消えて行く。 今日は最後の日。 だから、たった一人の愛する君と、約束したんだ。 この世が朽ちて行く姿を二人で眺めよう、そして一緒に死のうと。 この丘で。 なのに 君は まだ来ない。 分かっていたよ。約束をした、その時から。 僕のことなど、信じていないと。 そうだ、幼い時も、同じ事をした。 いくら皆に言っても、誰も信じてくれなかった。僕の予言を。 大人にはバカ者扱いされた。友達も一緒だ。 だけど、君だけは僕のことを信じてくれると思って、言ったこと なのに…。なぜ、君まで…。 〜さようなら 愛すべき人〜 空が蒼から灰色へ変わって行く。 「ほら、僕の言った事は、正しかっただろう?」
平凡な空間に泡だった粒子が、ふつふつと浮き出してくるように 喋りだした佐藤氏のおかげで、これからも、そして,これまでの平 坦なグラフみたいな、鈴木氏の、のっぺりとした人生に、べつにど うでもいいような事故をめぐり合わせた。 佐藤氏の超能力は、たいしたものでもなんでもない。特別じゃな い超能力は、きちんと存在している。佐藤氏の中に、ただ存在して いる。まるで触れられるのを避けるように。 原色のライトのもと,4WDの窓に映る歪んだ光のために誰が乗 っているのかなんてわからないし,知りたくもなかったけれども、 鈴木氏は,さっさと行ってしまった事故相手の4WDの後部を目で 追いつつ吐き捨てた。 〈度胸のないやつ〉 ラブホテルの前だからって遠慮することはないんだ。こちらがぶ つけたわけだからな。 鈴木氏が、ホテル『カリフォルニア』のネオンを見上げながら、 鳥の名(つまりイーグルス)を思い出そうとしている時に、佐藤氏 といえば、重症をおった熊のような車の側でうずくまり、ゲーゲー やっていた。 やれやれ、ここで一晩やっかいにならなきゃならないのかと、鈴 木氏はネオンに照らされた汚物を避け、佐藤氏の、背骨の突き出し た背中をさすってやった。その生温かさに、殺されるかもしれない 妻を想った。 佐藤氏の視線は、天使が舞い降りてきたわけでもないのに、泡だ った空間に釘付けにっていた。彼の発した言葉がそこにある。 「ぼくはね、三四歳で死んでしまいたい。ぼくには、そうとしか ぼくの命を考えられないんだ。わかるかい?」(分かるわけないだ ろ! お前は泡を吹き出す穴を塞いでいればいいんだ。ゲロが溢れ ないようにな) 発作を起こした佐藤氏は、ホテルの真っ暗な浴室の中、ゆっくり と浴槽に横になる。プラネタリウムみたいだ、と想像する。何かを 追っていた。そうに違いないのだけれども、僕達は、一体何を追っ ているのだろう? 夏の星座が浴室の壁から沈み、反対の壁からは冬の星座が昇り始 めている。まるで果てしなく続けられる追いかけっこだ。佐藤氏は、 胸が痛み、哀しみに打ちひしがれそうになる。星座は回り続ける。 壁の向こう側からは、鈴木氏の点けたテレビの音が聞こえる。しば らく後に、鈴木氏が浴室を訪れ、佐藤氏の癒しを受けるのだろう。 佐藤氏の超能力はたいしたものでも、特別でもないのだけれど。
つまり、鼻孔の奥に詰まった米粒が、取れないのである。片小鼻 を人差し指で押さえ、フンッと空気を押し出すも、取れそうにない。 こういった事態に直面した時に重要なのは、テレビでも見ながら、 のんびりと、米粒と格闘することである。 そんなわけで、テレビをつける。人気沸騰中のアイドルグループ が、一糸乱れぬダンスで、流行歌を熱唱している。このような激し いテンポの曲は、米粒が鼻に詰まるといった緊急事態に直面した時 には、そぐはない。事態の解決を遅らせるだけだ。 そこで、チャンネルを、NHKに切り替える。ビンゴ! 演歌番 組だ。男性歌手の、りりしいまでの横分けが、僕に勇気を与え、女 性歌手の、一分の隙も無い化粧が、僕の気持ちを引き締める。 僕は、やや爪の伸びた小指を、鼻の奥に差し込む。演歌にテンポ を合わせつつ、ゆっくり鼻をほじる。静かに、優しく。 それでも米粒は、鼻の奥にへばりつく。 やがて、演歌番組が終了する。いまだ、米粒は、取れない。 アパートの隣人が帰宅し、常軌を逸した音量で、作り笑顔が素敵 なB級アイドルの、バブリーな曲を聞き始める。 『オーケー、今夜だけは勘弁してやる、俺も自身の背負った問題で 忙しいからな』 テレビでは、女子アナがプロ野球速報を伝えている。女子アナの 横の解説者が、「気持ちの勝利です」と解説する。『そんな解説が あるか』と心の中で舌打ちしながら、今日も巨人は負けたのかと、 アンチ巨人であるにもかかわらず、少しがっかりした気持ちになる。 ふと、『我が巨人軍は永久に不潔です』というコテコテのギャグが 頭に浮かぶも、声には出さない。 今の僕にとって最も重要なことはだ、このいまいましい米粒を取 り去ることだ。そしてそれが完了した時、僕には未来永劫不変とも 思われる幸せが訪れるのだ。 僕はテレビの上のティッシュに目をやる。案の定、僕はティッシ ュを細長く丸め、鼻に差し込み、優しく優しく上下に動かす。 日本を、少なくともこのアパートを崩壊できるのではないかと思 われるほどのエネルギーが、鼻を中心に集まり、凝縮され、やがて 頂点に達す。 昇天! クシャミとともに、米粒が畳の上に吹き出された。
大手自動車メーカーの部品下請会社である藤原製作所、敏宏がそ こに勤務してからもう十年が経っていた。 「おい、こんな所で一体何してんだ」 たった五十分しかない休憩時間、工場横の駐車場で作業服のまま 寝転んでぼうと空を眺めている敏宏に、同じ製造班の青木が問いか ける。 「相変わらず飛んでいないなと思って」 呟くような敏宏の返答に、青木は訝しげな顔を浮かべ首をひねる。 「空飛ぶ車ですよ」 笑顔でそう答える事によって青木の顔が一層渋る。 「ほら、小さい時によく本とかで見ませんでしたか。『これが僕ら の未来だ』って感じで、まるでこけしのような建物が立ち並んで、 その間を流線形をした空飛ぶ車が飛びまわってるっていうイラスト」 「さあ、うちは貧乏だったからな」 「俺、あの空飛ぶ車に乗る事に憧れてたんですよ」 そう言って再び視線をよく晴れた空に戻す。絵の具で描かれた空 よりも青く澄み切った空の海に、雲という名の白い大陸がぷかぷか と浮かぶ。その上を数羽の鳥が飛び去って行くが、やはり空飛ぶ車 はどこにも見当たらなかった。 「青木さん、俺、自分が大人になったらきっと空飛ぶ車ができてて、 自分はそれに乗ってあの鳥のように空を駆け回る事ができるだろう って思ってたんですよ。もうすぐ21世紀になるっていうのに。な かなか乗れませんね、空飛ぶ車」 相変わらず空を見上げて空飛ぶ車を探す敏宏の横に青木は腰を下 ろし、購買で買ったばかりのパンをおもむろに食べ始めた。 「うちのせがれの健太な」 パンを食べ終え、食後の一服を済ませた青木があぐらをかいたま ま首だけを倒し、敏宏と同じ空を見上げた。 「やっと就職が決まってな。高校の先生のコネで近くの小さな町工 場で来年から働く事になった」 「おめでとうございます」 「ばか、ただの工員だぞ」 青木その空を眺めるしぼんだ瞳にも、やはり空飛ぶ車は映らなか った。 「子供、生まれたらしいな」 「はい、おかげ様で。先日無事元気に」 「名前はもう決めたのか」 「はい、『来夢』って名前にしようかと思っています」 まったく、最近の奴はへんちくりんな名前を平気で付けやがる。 最近増え始めた顔の皺がより一層深く刻まれる。 構内に休憩時間の終わりを告げるサイレンが鳴り響く。二人の工 員はその重い腰を上げ作業場に向かった。 「ライムちゃん、空飛ぶ車に乗れるといいな」 別れ際、青木は敏宏の背中にそう言って自分の持ち場へと戻った。
2000年12月24日深夜。 2001年正月の記念事業としてドミノ倒しの世界記録に挑戦し ようと、ボランティアを募りドミノを並べはじめて三ヶ月が過ぎよ うとしていた。わたしがこの事業の責任者として、計画から携わっ て約一年。予定より大幅に遅れていた計画も、徹夜続きの作業で何 とか間に合いそうである。ゴールは見えてきた。しかしクリスマス 返上で作業はつづく。 「いよいよ大詰めだな、少し仮眠でもとろうか」 そう思った瞬間、かすかな目眩を感じた。 「疲れが溜まってるな、早く横になろう」 だが、目眩はおさまりそうにはなかった。それどころか、ますます ひどくなっている。 「地震だ!! 」 部下が血相を変えて部屋に飛び込んできた。目眩ではなかった。別 段大袈裟に騒ぐほどではない軽い地震だが、ドミノに致命傷を与え るには十分であった。私はドミノ会場へと急いだ。 「今までの苦労は何だったんだ! ああ神様、どうかドミノ達が無 事でいてくれますように、せめて、2001年までに間に合います ように、2001、2001……2001個以上倒れませんように ! 」 表面では冷静さを装いながらも、すっかりと取り乱していた。息せ き切らして会場に辿り着くと、ドミノはなぜか一個も倒れてはいな かった。 「ああ、奇跡だ! クリスマスに奇跡が起こったんだ! 神様あり がとう! 」 「…という訳で、幾多の困難を乗り越えて2001年を迎えるにあ たり、このドミノ事業を…」 いよいよ、2001年を迎える。祝辞を聞きながらこの一年の苦労 が頭の中をよぎる。祝辞が終わりスタート地点に立つ。指が震える。 カウントダウンの大合唱が聞こえる。フラッシュが眩しい。 「5・4・3・2・1・ゼロ! 」 カタカタと音を立てて倒れるドミノ。沸き上がる歓声。しかしその 歓声はすぐに静寂へと変わった。 途中でドミノは倒れるのを止めてしまったのだ。 そのドミノはちょうど2001個目であった。
彼女は乗務員たちの様子が気になって仕方がなかった。パリから 離陸後三時間ほどが経った成田への帰国便である。さきほどから通 路側に座る彼女の横を、乗務員の誰もが、走らないまでも足早に通 り過ぎて行く。彼らの笑顔も不自然で強ばっているように見える。 今も前方で男が何か頼もうとしていたが、言葉少なに断られたよう だ。通常ならばあり得ないことである。 彼女は幼い頃からの「飛行機オタク」で、その度が過ぎた結果、 本来ならば楽しめるはずのものが、乗るたびに嫌な思いを味わって いた。飛行機はなぜ飛ぶのかに始まり、乗務員の訓練や仕事内容に 至り、果ては知らなくてもいい飛行機事故にまで興味を持ったせい だ。 乗るたびに離陸から着陸まで、それこそ数分おきにエンジン音に 耳をそばだて、窓から覗いては翼の振動や火煙の有無に目を凝らす。 その合間にも、乗務員の様子の変化を見逃すまいと神経をすり減ら すのだから、到着する頃には疲れ果て、「二度と乗るまい」と思う のだが、仕事であってはそうもいかなかった。 突然、張りつめた声でアナウンスが流れてきた。 「この機はトラブルが発生したためにドイツ・ハンブルグに緊急着 陸致します。間もなく着陸態勢に入りますので……」 今までの危惧がとうとう現実になったのだ。考えようではこの時 を待ち続けてきたのかもしれない、と思うほど、彼女は妙に冷静だ った。詳しい状況説明が無いせいだろう、周囲を見廻してもパニッ クとは程遠く、客達も見かけだけは落ち着いていた。このように、 客には事情も真実も知らされないまま墜落炎上というのが飛行機事 故のパターンなのだ。 再びアナウンスの声。 「現在、不要な燃料を放出しておりますので……」 燃料を捨てるということは、着陸時に燃料に引火、爆発の危険性 が予測されるということ。彼女は改めて非常出口を確認すると、現 実にはやったことのないドアの開け方の手順を頭の中で反芻した。 その時、突然どうしてそんなことを思い出したのか、彼女自身に も説明がつかない。とにかく、「今回だけは死ぬわけにいかない」 と強く思ったのだ。願ったとも、祈ったともいえる。実際、無意識 に胸の前で手を組んでいたのだから。 几帳面な彼女は、普段ならそんなことはしなかった。今回は国内 の出張から引き続きのパリ出張だったから、仕方がなかったのだ。 「どうかあれを他人が始末するハメになりませんように!」 あれ、とは……洗濯機に放りこんできた、数枚の下着である。
砂漠の戦場.私は敗残部隊にいるらしかった.周りの兵士は皆う つむいている.言葉は一切口にしない.ぼろぼろの軍服から覗くあ ばらの凹凸と腕の細さが痛々しい.見れば私以外,中東系の年寄り ばかり.彼らに混じって私は列に並んでいたのである. 列の先頭では食糧のパンが支給されていた.パンは拳ほどの大き さだったが,蓄えの残りが少ないのかひとりその半分である.どの 人間も表情ひとつ変えずそれを受取ると,支給済みの仲間のところ へ行ってあぐらをかいていく.が,やはりそこでも言葉が交わされ ることはなく,誰もが思い思いにしかし同じように,陽炎の上る地 平線に遠い眼を遣りながらパンをちぎっていくのだった. 私の番が来た.すると支給係が日本人かと尋ねる.そうだと答え ると例のパンが五つばかり両手に渡った.一瞬,緊張が走った.全 兵士の視線を浴びた気がした.私はいちばん端の老兵の隣に座った. 微笑みかけるが返事なし.私はパンのひとつを半分にちぎり口の中 に突っ込むと,作り笑いを浮べもう半分を差出した.私はパンを持 て余していた.老人は震える手で受取ると,泣きながらちぎっては 食べちぎっては食べるのだった.そして一口にも満たないそのひと ちぎりごとに神に感謝を捧げるのだった.私はパンを噛みながらそ の姿を見ていた.何だかとても済まない気がした. 辺りを見回せば人間の数が少ないように感じた.変だと思ったの と同時だった.じいさんのひとりがパンを食べ終えたかと思うと, そのままぶるぶると身を震わせ始めたのだ.遠くを見つめたまま, 口もとには笑みさえ浮べていた.震えが激しくなるにつれじいさん は透明になり,最後にはすっかり蒸発してしまった.見れば同じ現 象があちこちで起きている.人影は次々と消滅し,私と目の前の老 人だけが残された.果たしてその老人も身を震わせ始めた.ただし 私を見ていた.少しずつ烈しさを増す体の震え.私は自分に微笑む 老人の顔が次第に霞んでいくのを見つめ続けるほかなかった. もう老人はいなかった.ついに私ひとりとなった.試しに体を震 わせてみるが何も起こらない.私は立ち上がり,余った四つのパン をかばんにしまった.オアシスが見える.私は灼けつく砂漠を歩き 出した.紺青の空には太陽がやけに明るく輝いていた.私はかつて ないほど太陽が眩しいと感じた.しかしそれは確かに今まで私が見 てきた太陽だった.
駅の改札を抜けて外にでると、眩しいくらいの陽射しが、手荒い 歓迎をしてくれた。 昨日までの雨が嘘のように上がっていた。 「暑くなりそうだ」 意味も無く、声に出す。照りつける陽射しが、半袖から覗く腕を やく。 「それにしても……」 デジタルの腕時計を見ると午後二時を指していた。「また、遅刻 か?」 僕の待つ櫛沢千枝子は、時間――というか、私生活の全てにおい てルーズだ。対して僕のほうは、A型という血液からもわかる様に 几帳面。 今日は、店によってきたせいで、時間ぎりぎりだけれど、しっか り間に合っている。 「今日くらい、時間通りに来てくれよ」 祈りもむなしく、時間は、刻一刻と過ぎていく。 「あの、お嬢様は困ったもんだ」 はじめてのデートの時が、不意に頭をよぎる。 大学のコンパで知り合い、意を決して申し込んだデートを千枝子 は、あっさりとOKしてみせた。 そして、当日。ガチガチに緊張していた僕を待っていたのは、悲 惨な結末だった。 五時間待った。千枝子は、来なかった。 振られたのかな。と、思っていた次の日。千枝子が、泣きながら、 「ごめんなさい。日にちを間違えたの」 しかし、実際は、寝過ごしただけらしい。これは後日の本人談だ が、曰く、僕は人を待つのを苦に思わないタイプだったので。だそ うだ。 それは、当たっていた。 千枝子は、三年の付き合いの中で、一度も時間通りに来た事が無 い。 「今日は、少し懲らしめようか」 ポケットの中で、窮屈そうにしているプレゼントの感触を確かめ る。 「誰を懲らしめるのかなぁ?羽衣唯斗君」 羽衣唯斗という、嘘みたいな本名の僕を呼ぶのは、千枝子だった。 良家のお嬢様よろしく、白いワンピースと日傘を差している。似 合っている。ハッキリ言って、可愛くもあるが、完全に浮いていた。 「また、目立つ服着てきたな。一緒に歩くこっちの身にもなってく れよ」 いつもの僕の言葉に、「じゃ、帰りましょうか」 と、いつもの言葉で返す。 「分かったよ。その前に、遅刻のばつとして、千枝子を泣かしてや る」 「私が、泣くと思う」 「賭けようか?」 「いいわよ」 僕は、ポケットからある物を取り出した。 「千枝子。結婚して欲しい」 「えっ……」 千枝子は、一瞬押し黙り目に涙を溜めて、言う。「そんなのずる いよ」 どうやら、賭けは僕の勝ちみたいだ。
クリスマスも近づくある日、街の牧師が貧しい子供達のためにク リスマス会を開くための募金を始めた。その話を聞いた十人ほどの 人々がその活動に加わった。彼らは小さな箱を持って道ゆく人々に 僅かなお金を求めて歩き回った。 たまたま私用のために牧師が活動を休んだある日、お金を集めて 回っていた彼らの前に、良い身なりをした初老の男が現れた。彼ら の中の一人が募金箱を差し出すと、男は首を横に振り、冷たく募金 を断った。男の態度に彼らは皆、不快な顔を示した。「少しくらい はお金を入れても良いものなのに」とこぼす者さえいた。 やがてクリスマスイブの日を迎えた。満足なクリスマス会が開け るほどのお金は集まらなかったが、それでも参加した彼らはそのお 金を使ってデコレーションを買い、教会の飾りはじめた。その間に 牧師は街中をまわり、子供達を集めた。 会のための支度が全て整った頃、教会の外は暗くなっていた。街 の子供がたくさん集まり、牧師がオルガンを奏でると、クリスマス 会は静かに始まった。 讃美歌の斉唱の後、牧師が聖書を読みはじめた。子供達は退屈そ うな顔で牧師の方を見ていた。 やがて会も終わりになり、子供達にお菓子の入った袋が配られた。 子供達は袋の中を開けると皆浮かない顔をした。子供達がなぜそん な顔をするのか、牧師以外の彼らには誰も理解できなかった。 そこで教会のドアが勢いよく開く音が響いた。皆が音の方に目を やると、入り口には白いひげと赤い服の男が立っていた。 「サンタクロースだ!」一人の子供が叫んだ。子供達は喜びの声 をあげて赤い男に駆け寄った。男は子供達の頭を一人一人と撫でな がら、背中に背負った袋の中の物を手渡した。 赤い男がプレゼントを配っている中、入り口からは沢山の人々が 食べ物を持って入ってきた。教会の中には数多くのご馳走と共に明 るい雰囲気までもが入り込んだ。 すべての支度を終え、プレゼントも渡し終えた赤い男は「クリス マスおめでとう」と言い残し、教会を去った。牧師と彼らが後を追 うと、そこにはあの募金を断った初老の男が立っていた。 「募金があの子たちのために行ったものならば、どうしてこんな 会合をもうける前に子供達のひもじさの事を考えなかったのだ? 私はあなた方の行動に偽りの信念を見たために募金を断ったのだ」 彼らは男の言葉に自らの信仰の薄さを深く恥じた、という。
風のことで彼女とケンカしたことがあった。 北風は、北へ向かって吹く風なのか、北から吹いてくる風なのか。 僕は前者、あいつは後者で言い争った。他愛ない議題だったが何故 か互いに譲らず、気がつけばカフェテラスの視線を一手に引き受け ていた。結局、あいつのほうが正しかったのだが、今から思えばこ れが最初のキレツだったような気がする。 些細な春のキレツは、季節が移ろう毎に大きくなっていった。木 々の色が変わる頃には、キレツはもうキレツでなくなっていた。秋 の失恋ほど辛いものはないと、どこかの誰かが言ってなかっただろ うか。 僕たちは、距離を置くことにした。なんて都合のいいセリフだろ う。自由な生活を取り戻した僕は、それが勘違いだと気づくのにそ う時間はかからなかった。僕が自由だと思っていたのは、あいつの いない不自由だったのだ。 季節は僕が気づかなくても移ろっていく。先週、木枯しが吹いた そうだ。残念ながら僕はその場に居合わせることができなかったが、 日を追う毎に、北から吹いてくる風は冷たくなっていった。できれ ば気づきたくない、今年の冬。 風の冷たさと、街の喧騒を忘れるために、僕は仕事に集中した。 サンタクロースになれたらと、本気で思った。そして、気づかない フリをしている僕をまるで気にも留めず、十二月は過ぎていった。 北風は、北から寒さを運んでくるから冷たい。南風は、南から暖 かさを運んでくるから暖かい。よく考えればわかることだった。「 ごめん」という言葉を乗せて、僕が風になってあいつのところに飛 んでいこうかと思った。 少し早めのクリスマスカード。僕のところに、“あいつ風”が吹 いてきた。
遺伝子操作により、食物は安く大量に作られる様になった。また 金属や繊維を始めとして、酸素・水といった人間が生きていくうえ に必要な資源までが、新種の微生物により栽培できる様になった。 人口は急激に増加し、地球の殆どの場所に人々が住み、自然は消 えていった。 地球の人類には平和(沈滞)が訪れた。 「教祖様。お教え下さい。人類を全て1/8にすると本当に地球が、 自然が復活するのでしょうか?」 「時間はかかりますが、自然は本来の姿に戻ります。地球の慈愛を 享受する為に我が教団があるのです。信ずる者がいる限り、神のご 加護はあります」 教祖と呼ばれた男は、澄んだ目で続けた。 「それよりも、ドクター杉端の方はどうですか。研究は進んでいま すか?」 「あっ、失礼致しました。その報告に来たのです。機械の設計図は 出来ました」 「それで、機械の方は?」 「はい。博士は、作れないと言って、国に帰ってしまいましたので、 別のチームが作成しております」 「…。それで、設計図だけで作れるのですか?」 「まもなく完成の見込みです」 十年前に杉端の所にやってきた男はこう言った。 「博士、生物を1/8に縮小する機械を作ってほしいのですが、お 願い出来ますか? 資金は望まれるままにご用意致します」 こんな美味い話は滅多にない。物理学の世界的権威であり、しか もあらゆる学問の知識を有する杉端ではあったが、研究費が無尽蔵 に提供されるなどという事は、学者にとって最も嬉しい事だった。 博士は研究に没頭した。どんな使われ方をするか気にはなったが、 興味深いテーマであったし、縮小された動物の生態にも関心がある。 研究の段階で、生物の能力をそのまま残すには、どうしても原子 レベルで、中性子と陽子の距離を短く(密度を高く)する必要があ った。生物を構成する分子(原子)を取り去ったのでは、能力が著 しく変わるからだ。それでは縮小とは呼べない。 だが原子レベルで密度を高くすると、廻りの物質は霞の様に、希 薄な物になってしまう。呼吸さえ、密度の違いにより出来なくなる だろう。 博士は悩んだ。密度を高くする事は可能だが、同時に周りの環境 も全て変える必要がある。…その為の設計図は出来た。 機械は生物も環境も縮小させ、正常に稼動したが、操作員は変化 が把握出来ずに、何度も動かした。 そして、密度の高くなった地球はブラックホールへと変化し、宇 宙を飲み込み始めた。
工事中の体育館を土砂や瓦礫をつんだトラックが頻繁に行き来す る。トラックは通るたびに少量の土砂と埃を撒き散らし、近くにあ る中庭の芝生を砂塗れにする。ハルはその砂塗れの芝生の上で寝そ べっていた。風と太陽の強い日で雲がとても早く動くのが解る。 昨日いつも一緒にいるスミに彼氏ができた。スミは今日一日大変 機嫌がよく、ハルもそれに付き合って話を聞いた。本当は放課後も ここで話を聞いてあげようと思ったのに、隅は授業が終わると「約 束があるの」と言ってハルを置いていってしまったのだ。いつも自 分は化粧が似合わないと言っていたのに薄い色の着いた口紅をつけ て。いったいいつのまにあんな物かったのだろうか?大体スミと言 ったら色気より食い気でハンバーガーの大食い対決をやった時だっ て。ハルは七個も食べれて絶対勝ったと思ったのにスミは九個半も 食べて結局、罰で私がその代金を払ったのだ。 高校に入ってからハルとスミはいつも一緒に行動していた。つい 二ヶ月前の夏休みだって七泊かけてハワイに行ってきたのだ。初め て飛行機に乗るスミに「飛行機の中では足音を立ててはだめ。飛行 機がバランス崩しちゃうでしょ。トイレ行く時もそーっとね」って いったら、スミ本当にすり足で動いてスチュワーデスさんに「どっ か具合でも悪いんですか?」なんていわれてた。何にも知らないく せに今日のスミったら「ハルも早くいい人できるといいね」なんて あれは本気で言っているのだろうか。だいたいスミってば「私は夢 を追いかけていて、輝いているような人が好き」なんていっておき ながら、今日見せてもらった写真の男人ってば眉毛なんか下がって いて、何の取り柄もないような、従兄弟の稔君に似た普通の男の子だ った。 ハルはため息付いた。これから予備校に行かなければならない 本当は今日はサボってもいいかな、と思っていたのだがスミがいな い以上サボってもする事がない。進路の決まっていない予備校ほど 退屈なところはない。重い腰を上げスカートを叩くともう一度ため 息を付いた。すぐ後ろを自転車がすごい勢いで砂煙を立てながら走 ってきた。同じクラスの達也だった「今日は一人かよ、さみしいな」 と通り過ぎざまに言う達也にハルは「うっさい」と怒鳴った。
最近肥満が気になる営業3年目の天野君。 今日も午前中の外回りを終え一休みしようと、途中で目をつけてお いたチョコレート・パフェの美味しそうなディスプレイが飾ってあ る喫茶店風のお店に入った。 「カランコローン」いまどき珍しい入り口の鈴の音。 それを聞いただけで今にもホイップクリームとチョコレート、そし てバナナのハーモニーが頭を占領してしまいそうな心地よいめまい に襲われた。天野は昼飯を食べに来たのだということをまず自分に 言い聞かせ、クラブ・サンドイッチとコーヒーを注文した。 真の甘党の誇りとして彼のコーヒーはブラックだった。鍵盤を弾く ような仕草で心を落ち着かせる。そして彼の目の前に置かれた、ま るで剣士が戦っているような勇ましさを垣間見せるソードを手にし た勇者サンドイッチ。彼はその勇ましさに反し、あっともいえない ほどの間に天野の胃の中に黒い洪水と共に流し込まれていった。 食べ終わると息を吐きながら食道から胃にかけての道のりを天野は 丁寧に押してマッサージした、まるで勇敢に戦った相手を褒め称え るように。ここで早速のチョコレート・パフェ様の登場を願いたい 気持ちを抑え、勿論まだ満たされていない天野の胃でありながら他 人の胃のような、天野が自分で命名=胃(異)空間、を少しでも満 たすべく、彼はスパゲティー・ミートソースをオーダー。 アルデンテの柔肌とその中心部を覆い隠すミートソースの衣装。 まるで挑発的な服装にいささか困惑した天野は慌ててフォークを振 り乱し、なるべく全てのパスタにソースをあえて何とか冬備えの 出来たワイン色のコートを羽織るスパゲティ嬢にやっと口をつける のだった。そう、口をつけ始めればそれが無くなる早さは口にせず とも分かるだろう。天野はフォークが巻き上げたブラック・ホール を次々と消し去った。お口直しにお冷のいっき。一息つきトイレを 借りて手も綺麗に洗い万全の体制が出来上がった。いよいよ右手を 上げようとした瞬間−彼は左利きなのだけれども−右横に置いたカ バンの中から突如としてテレフォン・コール。「こんな時に」急い でカバンを開いてグチャグチャになった書類の中から携帯電話を取 り出そうと必死だ。 しかし左胸に激痛が走り天野はかすかに左手を挙げ床に伏した。 「チョパ」それを聞いた店員は「チョコレート・パフェですねー」 彼は異空間へと旅立ってしまった。 胃空間は宇宙創造のときのように大きな爆発を起こしていた。
うおっ、そこいらのあんさんよおお。にらむんじゃねえよ、こらっ! へのへのもへじの独り言。 ああ、春がきたなあ。 水田に 田んぼに あの森にも そしてこの村に。 へのへのもへじの独り言。 ねずみはマウス。 そうなのでございマウス。 って、きみい、聞いちゃったよ今の、 恥ずかしくないのかねえ おい、聞いとるのか へのへのもへじの独り言。 ぎょほっ、うほっ、ごほごほ おいらもついに風邪をひいた こんなところにいつまでも立っていちゃあなあ 寒さが身にしみちゃうぜ へのへのもへじの独り言。 夜は星たちのパレード いてつく大気にあおられて 音も立てずに静かに歩く そりゃあみごとだ美しい と思ったら朝がきている へのへのもへじの独り言。 あのうこの辺にトイレありませんでしたか そんなことに知るもんか こんな田舎で だれがおまえのことなど見るか その辺にしてしまえ だって、おまえが見ているじゃないか へのへのもへじの独り言。 鳥 山 川 森 田 畑 雪 そんな景色を眺めながら いつまでもいつまでもぼおっと立ってる そんな君が大好きだ へのへのもへじの独り言。
「お茶がはいったよ、おまえ」 おじいさんはお盆の上の茶碗を手にとって、ベッドの上で身を起 こしているおばあさんの手に持たせました。透明感のある若葉色の お茶の表面から、うっすらと湯気がたち登ってます。 おじいさんの声が聞こえたのか、聞こえなかったのか、おばあさ んはひざの上で茶椀をもったままお茶を飲もうともせず、じっとし ていました。ただぼんやりと、開かれた障子の向こうにひろがる枯 れ葉の散らばった庭をみています。 そんなおばあさんの様子を気にしたふうでもなく、おじいさんは ベッド脇の椅子に腰をおろし、お盆の上のもう一つの茶碗を手にし ました。おばあさんとお揃いの二匹の海老をあしらった茶碗です。 そして、おじいさんは、あたたかさを確かめるように手ですこし茶 碗をまわして、おばあさんに倣うように庭に目をむけました。 「こうやって、一緒に庭を見てると昔を思い出すなあ。あのころは 枯れ葉を集めてよく焚火したねえ。おいもを焼いて……」 小さく笑って、おじいさんはお茶を一口啜りました。すこしぬる めに入れたお茶のさわやかな渋みが、舌の奥の方にひろがります。 おじいさんはふうと一息いれました。 そして、思いだしたように言いました。 「そうだ。今日はお隣さんから秋刀魚をいただいたんだよ。久しぶ りだし、ちょうど冷蔵庫に大根があるから、今晩は焼き魚にしよう と思ってね。柚子は後で……」 突然、隣の部屋から電話の呼び出し音が聞こえてきました。 「おや? だれだろう。電話がかかってくるなんて、めずらしいこ ともあるもんだ」 「すこし、待っててくれよ」 おばあさんにほほえんで、おじいさんは立ちあがりました。 おばあさんは、ただぼんやりと枯れ葉の散らばった庭を見つめて いました。 「ふう、やれやれ」 四十がらみの男が受話器を置いた。 「どうでした? お客さんの様子は」 隣の机で何やら書類を書いていた若い男が、ボールペンを持つ手 をとめて男にたずねた。 「ああ、上々だよ。ばあさんが生きているかのような口調だったな。 あの精巧さじゃ無理もないがね」 若い男は少し眉をひそめた。 「大丈夫なんですかね?」 「じいさんにとって、ばあさんはまだ生きているのさ。それであの じいさんが幸せで、我々にお金が入ってくるなら言うことないじゃ ないか。それにウチの製品は本物のばあさんと違って、介護の必要 もないし、お金もかからない。何より、もう死なないのだから……」
月曜日に生まれたジョンは、オギャーと泣いたかと思ったら、玉 のようにコロコロと笑い、どこかにプイッと居なくなって皆を心配 させたかと思ったら、きれいな歌声を披露して皆を驚かした。 月曜日に生まれたジョンが、火曜日になると学校へ入学し、勉強 で1位になったと思ったら、派手ないたずらをして先生に大目玉を くらい、素晴らしいギターの音色を奏でたと思ったら、女の子をエ ンエン泣かしてた。 火曜日に学校へ入学したジョンが、水曜日になると学校を退学し、 悪い奴等と仲良くなったと思ったら、派手な盗みを働いて、警察に 捕まったと思ったら、檻の中で大暴れ。だけど彼の書く詩は素晴ら しかった。 水曜日に学校を退学したジョンが、木曜日になると仲間を3人呼 び集め、皆の前でアイドル風情で歌ったかと思ったら、大金をがっ ぽり稼ぎだし、その歌を引っさげて世界中を飛び回ったと思ったら、 皆を熱狂の渦へと巻き込んだ。だけど彼は苦悩するばかりだった。 木曜日に仲間を3人呼び集めたジョンが、金曜日になると黒い髪 の女と結婚し、仲間の3人と離れ離れになったと思ったら、可愛い 子供を授かって、戦争が始ったと思ったら、反戦歌を歌ってた。 金曜日に黒い髪の女と結婚したジョンが、土曜日になると銃で打 たれて死んでいた。 土曜日に銃で打たれて死んでいたジョンが、日曜日になると皆を 悲しみの底に連れて行き、頬を冷たい涙で濡らさせたかと思ったら、 女達は鳴咽をもらして泣き崩れ、憎しみの拳を振り上げたと思った ら、男達は昨日の歌を歌ってた。 そしてその歌は月曜日に生まれる子供たちへと捧げられた。
お昼休みの給湯室は、訪れる人もなくしんみりと語るのにいい。 それが理由なのかどうか、私とアヤはいつもそこでダベるのが日 課となっていた。 しゅぼっ、とアヤのジッポが小気味のいい音を立てた。程なくし て広がるタバコの煙。 「あやちゃん、あたしにも1本くれる?」 しまいかけた箱をまた取り出して、アヤは黙って差し出した。驚 いたような顔をしている。 「ありがと」 と、1本抜きとって、コンロで火をつける。 「吸わないんだと思ってた」 ぽつり、とアヤが言う。私は肺いっぱいの煙を吐き出しながら答 える。 「吸わなかったの」 5年ぶりの1本はやけに喉を灼く。 「彼氏がね。身体に悪いから吸うなって。自分は吸うくせに」 乾いた笑い声を立ててから後悔する。その矛盾が優しさから来る のだと思っていた自分の青さがほろ苦い。そんな私を尻目に、アヤ は 「女にはこうあって欲しいっていう男のエゴだね。でもなんで、彼 氏が居ない時も吸わないの?」 などと言う。 「さぁ」 そうすることで、まだ彼を愛している、と思いたかったのだとは 気恥ずかしくて言えない。一瞬、口を開こうとしたかに見えたアヤ が思いとどまったような顔をした。そのまま、私達はしばらく無言 で紫煙をくゆらせる。 「私は男の趣味に合わせるのはいやだなぁ。誰かを演じてまで好か れたくない」 アヤが呟いた。自分に向けられた言葉なのかがつかみきれず、私 は何も言わなかった。 私達がそんな会話を交わして一月ぐらい経った頃からか、アヤが 給湯室に姿を見せなくなった。部署も違うし、ただ隠れ家を共有し ていただけだから、どうしたのだろう、と少し思うだけだったのだ けれど、ある日の夕方、会社の入り口で彼女を見かけた。 「あやちゃん」 声をかけると、彼女は 「あ・・・」 と、びくっとしながら振り返った。 「久しぶり。タバコ、いる?」 あれ以来タバコは切らしたことがない。 「今、いいや」 「そう。最近見ないから、どうしてるかと思って」 そう言いながら、彼女のそっけなさはどうしたことだろう、と思 案する。 「ごめん、今待ち合わせしてて・・・」 「そっか。じゃ、またね」 そう言うと、彼女はほっとしたような顔をした。 立ち去りかけて何気なく振り返ると、私の元カレが、彼女に歩み 寄っていくところだった。 「なんだ、そういうことか」 私はタバコを取り出し、呟いた。
部屋を掃除して見つけたアルバム。 何気なくひろげたその思い出本の最初のページに貼り付けられた 水着の女性の写真。逆光を浴びて白く輝く、柔らかな波の中に佇み ながら微笑んでいる彼女は、人に温もりを与えることの喜びを僕に 教えてくれた最初の人。あばらの浮き出た野良犬のように夜を彷徨 い、虚飾の光に覆われた街の中で、夜明けまでの恋愛を求めること の儚さを教えてくれた人。 彼女と出会うまではまだ、女の与えてくれるあらゆるモノが、僕 にとっては自動販売機の明かりにたむろする虫の羽のように軽すぎ て、僕の目の前から飛んで消えていってもその大切さに気づかなか った。 そう、僕はセックス相手の数を誇るだけのただのガキだったんだ。 ガキだった僕はマリファナを吸っているぐらいでドラッグの何た るかを知り尽くした表情を浮かべ、女を泣かせても暴力を振るって いないだけでフェミニストの鎧を着ていると思っていた。女の数を こなしてそれだけで年を重ねた気分になって、早朝ラッシュでくた びれきった中年を仲間と一緒に見下して笑っていた。 笑っちゃうよ・・・。 僕らは大学に入り、仲間との絡まっていた糸は解れた。僕は仲間 の消息を知ろうともせず、新しい舞台で新しい役を演じた。 世の中の何たるかを悟ったような表情を浮かべて、無理に冷たい 表情を浮かべていた僕がサークルで出会った2つ年上の女性。彼女 の部屋にはじめて行った時 「臆病な姿を隠そうとしなくて良いんだよ。」 と言われた僕の目から零れた涙を受け入れて一緒に泣いてくれた彼 女。彼女の涙が僕の心を縛っていた冷たい氷の鎖を溶かし、僕は女 性の涙の暖かさを感じ、そして女性の優しさを知った。 物心が付いた頃母の胸で泣いて以来僕ははじめて他者に涙を見せ、 そしてはじめて他者が愛おしいと思った。 そして僕は彼女を愛し、彼女は僕を愛し、何年か経って二本の糸 は再び解れてバラバラになった・・・。 アルバムの次のページに挟まった一通の手紙。名残惜しく持って いた彼女の結婚を伝えるその一枚の紙を、僕は灰皿の上で燃やして 外に出る。 僕は、現在温もりを与えてくれる愛する彼女の下へと向かう。 家に帰ったら今の彼女の写真をアルバムの最初のページに貼るこ とを心に約束しながら彼女の下へと向かっていく。
大理石の丘を一息で登りきると、そこには美しい湖があった。水 はまったくの透明で、やはり大理石でできている湖底を、寸分もに ごらすことなく見ることができるほどだった。風も、波もない。す べては静寂に包まれていたのである。 私は湖畔にしゃがみ、水を飲もうとそっと口を水面につけた。し なやかな円を描くように波紋が広がっていった。ふっと目で追う。 水面に映っていた何者かの姿がゆらゆらと揺れた。顔を上げる。 ! そこには殺意丸出しの生物がこちらを見据えるようにたたず んでいたのである。大きな男だった。 逃げねば! そう思うより早く、私の足は丘の上めがけて動いて いた。なぜ丘の上かは分からない。きっと本能的なものなのだ。そ して気づくと、私は切り立った崖の上に立っていた。一旦深呼吸し 男はどうしたか見ると、変わらずこちらを見据えていた。隙をうか がっていたのである。そう、今のように立ち止まっている時を。 男の手が飛んでくる。遠まわしに見ていた時は分からなかったが、 男の手はかなり大きかった。私など手のひらで簡単に押しつぶされ てしまうだろう。それほどの体格差だったのだ。男の手が間近に迫 る。そして、 パッ。 ドンッ! スーッ。 間一髪で、羽を広げて飛び立ったのである。またも空振りした男 の様子を振り向き見ると、呆気に取られていた。私が飛ぶなどとは 考えていなかったようだ。もっとも、そう長くは飛べないのだが。 前を向きなおすと、そこは不覚にも、左右に逃げ場のない深い谷 の中だった。水が長い間かけて浸食し、ここまで深くしたのであろ う。それを証明するように、一筋の川が流れていた。川の水は黄土 色で、無気味に光る水面は、私が力尽きるのを心待ちにしているよ うであった。しかし。こんなところで終わってたまるか。 少し行くと谷の左側の崖に隙間が見つかった。旋回し光差す隙間 へと身を投じる。 こともなくするりと抜けて、明るい平原に出る。 思わず笑みがこぼれた。平原一面、色とりどりの花で一杯だった のである。そろそろ限界でもあったし、私は花畑に降り立った。優 しい匂いが鼻をくすぐった。 右側は、樹齢数百年を数えようかというほどの立派な木々が、空 に向かってまっすぐに伸びて薄暗かった。それもあってか、花畑の 美しさがいっそう映えた。 うっとりと、幻想の世界に浸っていた。 「ごめん、ゴキブリ」 私の魂が、私の亡骸持って、そう言う男を見ていた。
ノブの奴が失恋傷心旅行に行くと言う。気紛れに同行する気にな った。僕は出不精だから旅など滅多にしない。深夜過ぎ上野発の信 越線夜行列車に乗った。どこへ行くのかも僕は知らない。 列車内の蛍光燈は冷たい光を放っていて、窓に映る自分の姿が闇 の中を走る。自分を見つめるという旅の抽象的な意味がこんなとこ ろに具現化していることに気づいて、ちょっとセンチになる。 10日ほど前、直子と関係を持った。 「まわりのこと、全部忘れてほしいときがあるの・・」 あいつとうまくいっていないんだ・・と思い当り、アイコの心を覗 き込むように見つめる僕に、 「今日は、危ない日なの。でも・・」 それ以上を女の子に言わせるほど無粋な奴にはなりたくなかった。 僕は直子のことが好きだ。僕らの中で一番古い知り合いが、僕と 直子だった。ただ、直子にも僕にもそれぞれ別の相手ができたから、 一線は越えないですんできた。今、そのバランスが崩れたらしい。 僕は躊躇した。けれど、意を決し僕は答えた。 「分かった。今夜は俺の女だ」 直子は、何かを振り払うように激しく、僕の背中に爪を立てた。 思わず直子の口を手で塞いでしまうほどに、直子は行為に没頭した。 二人が眠ったのは、空が白みはじめた頃だった。 翌朝、僕は自分に裏切られた気分になってしまった。直子の部屋 を後にしてから自己嫌悪が僕を満たし、自分が不純なものに思われ て吐き気がした。普段、「Sex はコミュニケーションの手段」など とうそぶいていたのに、直子と関係を持ってしまうと自分の心を持 て余すことになった。 それ以来、いつものようにアイコと逢っても自分が汚れているよ うで自信が持てなくなった。アイコも何かを感じている様子だった。 けれど、アイコは何も言わない。 そんなとき、ノブがちょっと旅に出るというので、「付き合うよ」 とデイバックに下着を押し込んで列車に乗った。どこか日常と離れ た場所で、放心状態で居たい気分だった。 列車の窓に自分の姿が映る。ノブは自分の心を見つめているらし い。ワンカップの酒を片手に列車の天井を見つめている。 それぞれに自分を見つめる旅、同行しているけれど、心は別のも のを見ている。男同士だから可能な関係かもしれない。 列車の窓からの光が、刈り取りが終った水田に走る。心のバラン スを取り直すために必要な孤独な時間、それが旅なのだろうと思っ た。
夜道に女性がひとりで歩いていた。 僕は彼女を追って2メートルの位置まで近づくと、箱を開けて緑 色の玉をとりだした。 不審に思った女性が振り向く。幼い瞳が興味をわかせた。 「僕の世界においで!」 そう呪文の言葉をかけると、緑色の玉は一瞬光り、見る見る間に 彼女は10分の1に小さくなった。 恐怖に歪む彼女の顔。 いくら逃げようとしてもすぐに追い付く。僕はつぶさないように 彼女に近づき、やさしく手で掴むと、カバンの中の虫かごに入れた。 「少しの辛抱だよ」 僕は自宅に向かった。 3ヶ月前、両親が親戚たちとの旅行中に交通事故で亡くなった。 残ったのは保険金と、親戚の財産だった。その中にその屋敷があっ た。古い洋館なのだが住心地がいい。迷わず僕はそこに住むことに した。生活費には困らない。 その洋館の地下室に金庫に入った謎の箱があった。その中には緑 色の玉が入っていた。 世界創造の玉だという。 好きなものを、そのまま小さくできるのだという。 試しに野良猫に向かって玉をかざしながら 「僕の世界へおいで!」 と言ってみる。 猫はピンポン玉の大きさになった。 これは本物だった。 僕は小さな女を飼ってみようと思った。 最初、女は泣き続けていた。なかなか言うことをきかない。その うち、態度はでかくなってくる。 「あなたにわたしは犯せないわ。だって小さいんだもん」 犯せなくても殺せる。僕は彼女を衝動的に殺してしまった。 「馬鹿だな。次を飼えばいいんだよ」 次の日ふたりの女性を小さくして連れてきた。女たちを覗いてい たら急に屋敷の屋根が無くなった。 ポッカリ空いた空から、大きな顔が覗き込んだ。 「おお、こいつも女を飼い始めたぞ」 僕も小さかったのだ。 するとその上の屋根もなくなった。 もっと大きな瞳がこっちを見ている。 「大きな世界を造ったな」 そのとたん、その上の屋根もなくなった。その上も、またその上 も…僕は米粒よりも小さな存在だったのだ。
何がきっかけで彼がヒーローになろうと思ったのかは分からない。 けれど最近の彼は何だか生きる意味を見失っているようだったし、 ヒーローになることに彼が生きがいを見出してくれるのなら、それ はそれでとても素敵なことだった。 ヒーローになるということは自我を捨てるということなんだ、と 彼は言った。けれど古今東西のヒーローを見まわしてみても、彼ら が自我を捨てているとはどうしても思えなかった。妙に奇抜な格好 をして、時には自ら正義の味方を名乗る彼らは、どう見たって自我 のかたまりだった。 そのことを彼に告げると、彼は大きく首を振って右手の人差し指 を立ててこれまた振った。 「本当のことを言うとね、彼らはヒーローじゃないんだよ」 実は彼らは世間の目を欺くためのカモフラージュに過ぎなくて、 本物のヒーローが見えないところで頑張っているのだ、本物のヒー ローは今もあくせく働いて、縁の下で地球を支えているんだよ、と 彼は自慢げに説明してくれた。 「そんなヒーローに、僕はなるんだ」 そう言ってぐっと拳を握り締める彼の姿は本当に力強くて輝いて いて、こんなに素敵な彼を見るのはいつ以来だろう、と心地よい感 慨に浸ってみたりした。 あれから3ヶ月。風の便りはまだ聞かない。彼はいったいどこで 何をしているんだろう。もしかしたらもうすでに縁の下で地球を支 えてくれているのかもしれない。本当のヒーローになれたんだとし たら、風の便りも聞かないのはしごく当然のことだった。そう考え ると何だかワクワクしてきて、ヒーローばりに思いっきり、前方に パンチを繰り出してみた。繰り出したその先には何だか鈍い感触が あって、視線を上げると十字傷とサングラスと剃り込みが見えた。 サングラスの奥にのぞく男の目には殺意が見え見えで、謝って許 してくれる人じゃないことはすぐに分かった。彼が右腕を振り上げ たそのとき、「待て!」という声と共に新進気鋭のマスクマン、ス ーパー牛が現れた。 「カルシウム不足は諸悪の根源。正義の乳牛、スーパー牛、ここに 参上!」 スーパー牛は何個もついてるおっぱいを悪党に向け、牛乳みたい なものを発射した。牛乳まみれになった悪党の最期を見届けると、 スーパー牛は素早く走り去っていった。 陰なるヒーローの存在を知ってはいたけれど、スーパー牛の勇姿 が頭にちらついて離れなくて、世の中って難しいわね、と縁の下の 彼に語りかけてみた。
僕は湯をはった風呂に浸かりながら 取り止めもない想いをはせていた とりあえず鼻まで沈んでみる もし誰かが上方から見れば 湯から奇妙な半球が浮かんでいるように見えるんだろう 顔をしかめてみる これで湯に浮かぶ“ドームとその眉間のしわ”だ 面白い 今度はそのまま窮屈に折っていた両足を 湯から出して風呂の壁に突っ張ってみる これでもし湯の色が鮮やかな赤色だったらどうだろう 僕は風呂に沈められた死体になった 殺されてまだまもない死体 血で真っ赤に濁った湯 周りに飛び散った血がないから 風呂に入っているときに何かで刺されたのだろう 抵抗もしなかったらしい 相手の殺意を享受したわけだ 傷はどこにあるのだろうか 腹か首筋 多分動脈のあるところだ もしも手首だったら自殺という事になる おそらくかみそりか包丁は右手に固く握られたまま沈んでいるのだ クリーム色で統一された壁が 毒々しい紫色だったら状況はまた変わる この趣味の悪い湯の色は僕が好んで愛用している入浴剤の色だ いつから壁は紫なのか 前に住んでいた者が(恐らく女だろう)塗りつぶしたのか この風呂場が気に入って部屋を決めたのか それともこの紫に目がつぶれる程 間取りが広いか、通学に便利だったのか 僕はその壁を塗り直そうとは思わなかったのか 湯を真っ赤に染めて芸術的な雰囲気に酔っているのか 体が暖まった 死体は湯から出て頭を洗いだした
九月に東北地方で見つかった新型のインフルエンザウイルスは、 三か月後には僕らの小学校の三分の一を学級閉鎖に追い込んだ。 「目が充血したり、体に赤い斑点ができていたら、すぐに病院へ行 くこと」 もう何度も聞かされている説明だ。そしてそれを聞いた教室の僕 らは、慌てて袖を捲ってみたり、お互いの目を覗きこんだりしてふ ざけ合う。ところが今朝は、先生の説明が終わっても誰一人そんな 素振りを見せなかった。 その時は気にもとめなかった。でも一時間目が終わった時、僕は 目を疑った。チャイムが鳴って先生が教室を出ていくと、いつもな ら騒がしくなるはずの教室が静まり返っていたのだ。誰も席を立た ない。誰も話しかけない。誰も動かない。 教室を見渡して、僕はぎょっとした。二十三人のまっすぐに黒板 を見つめる顔が、どれも同じだった。 「新型のインフルエンザウイルスが人体に及ぼす影響については未 だはっきりとつかめておらず厚生省では早急に対策を検討しており ……」 二時間目も、三時間目も、授業が終わって休憩時間になった途端 に、教室はかつて見たことのない静寂に包まれた。この異様としか 思えない光景に僕以外の誰も気づかず、そして僕以外の全員が同じ 顔――粘土で固められた人形のような顔をしていた。四時間目が終 わった時、その無気味な顔が一斉に僕を見た。 直後、僕は椅子を蹴っていた。足がもつれて倒れそうになったが、 なんとかこらえて教室から走り出た。廊下に出ると、一人が僕の前 に立ちはだかる。 「どけ」 僕の言葉は、ウイルスに侵された人間には届かないようだ。そし てその時、僕は見たのだ。やつの虚ろな目が、吸血鬼のように赤く 光っているのを。 僕はそいつに体当たりを食らわし、全速力でその場から逃げ出し た。学校を出て近くのコンビニに駆け込むまで、一度も振り返らな かった。 ――二週間前。 「やっぱり無茶だ」 「今更びびってんじゃねーよ」 「この一年半、あいつがおれたちに何をしてきたか思い出してみろ。 このまま九州なんかに転校させて気がすむのかよ」 「だいたい、西原の弱点を教えたのはあんたよ」 「だからそれは幼稚園の頃のことで……」 「清水が赤いコンタクト手に入るってよ」 「っしゃ!」 「嫌なら帰れよ柴田」 「嫌だなんていってないよ」 「田辺! いまおまえ笑ったろ!」 「いいか、十分だ。十分間、ぜったいに表情を変えるな。いいな」 「じゃあ、もう一度。ようい、はじめ!」
氷の下から発掘されたのは、何万年も前の人間だった。 「これは凄い……」 防寒着に身を包んだ博士が感慨深げに見つめる。 北極圏近くの極寒の気候は、死んだ生物を腐らせず保存する。発 掘された人間も、まるで動き出しそうなほどみずみずしく完全な状 態だった。 「貴様、何をやっている!」 博士は、記録を付けている学生を睨んだ。 「記録は一切残してはならん!」 「え? ですが博士、これは人類の進化を知る上で貴重な資料に… …」 状況が理解しきれない顔で、学生は鉛筆を止める。 「冷凍人間だのマンモスだのの発見例は、お前が知らんだけで山ほ どある。学会で発表しても何にもならんわ!」 「そんな話ほとんど聞いたこと――ま、まさか、裏ルートで売って いたんですか?」 「馬鹿もん! 売るわけがなかろう!」 「ねえ、最近の魚っておいしくなくなったって思わない?」 昼休み、高校の中庭で絵里子と一緒に弁当を食べていた千世さん は、思い出したように尋ねた。 「またわけの分かんないことを、薮から棒に……」 絵里子は、パンをもくらもくら食べる。 「ほら、食べてみて」 千世さんは、自分の弁当箱から鮭のムニエルを取って絵里子に差 し出す。 「……どれ」 ぱくっ。 「相当おいしいと思うけど?」 「そうかなぁ、やっぱり素材の味自体は落ちてるのよねぇ」 「環境変化かなんかじゃない?」 「でも最近は、地上核実験も、メルトダウンもやってないはずだし ねぇ」 「メルトダウンをわざわざやる国もないと思う……」 絵里子はコンビニの袋からパックの牛乳を取り出した。 「ま、ともかく思い過ごしでしょ。そもそも小さい頃と今とじゃ、 好みも違うんじゃない?」 「……私は今も昔も一緒だけど? 豆腐とかフグとか鮎とかタニシ とか」 「魯山人かあんたは!」 牛乳パックにストローを挿しながら、絵里子は苦笑する。 「それでねぇ、一つ仮説を立てたんだ」 「仮説?」 「自然淘汰ってあるでしょ?」 「あるけど……」 「おいしい魚とおいしくない魚がいたら、どっちを食べる?」 「まあ、おいしい方ね」 「そーすると、相対的においしくないものの方が多く生き残るわよ ねぇ」 「はぁ」 牛乳を飲みながら、絵里子は曖昧な返事をした。 「ってことは、時代を経るごとに、生物はおいしくないものだらけ になるわけでしょ。逆に考えると一億年前の貝なんかもう――」 「んな馬鹿な話があるわけないでしょーが!」 「う、うまい……」 「だろ?」
「ポトリ。」 水道の蛇口からしずくが落ちる。その音が真夜中の台所にひどく静 かに響く。もうどのぐらい見ているのだろう。こうこうと電気のつ いた夜中の台所に男はしゃがんだまま水道の蛇口から落ちる水を見 ている。ほら、また。水を落とした蛇口の先からだんだん水が膨ら んで、重さに耐え切れずまた落ちる。 「ポトリ。」 パッキンが緩んでいるのだろう。結構早い速度で蛇口の先がまた膨 らんでくる。だんだん膨らんで、よく見れば膨れた水滴の表面には それを見ている彼の顔がいびつな形で写っている。 「ねえ。私、月のものが来ないの。できちゃったみたい。」 確かに女はそう言ったのだ。まるで来るべきものが来ないのがそれ ほど嬉しいことは無い、と言わんばかりに。嬉しそうに薄笑いまで 浮かべながら。 一体何を考えればそんなことが言えるのだ。来るべきものが来な くて嬉しいなどということは聞いたことがない。友達と会う約束を したって、本を注文したって、来るべきものが時間どおりに来ない のが嬉しいなぞというのは聞いたことはない。遅れることは嬉しい ことではないはずだ。ところが、女はそんなことは知らんという顔 をして、 「私、絶対生むからね。」と続けた。まるで、女王が何かを宣言す るかのように。 遊びではなかったのか。私はどうする。私の妻にはどう言えばい い。子供にはどう言い訳をすればいい。 そんなことを男は考えている。女のことは考えていない。どうす ればいい? 「ポトリ。」しずくがまた落ちる。それを見ている男の顔に一つ の決心が浮かんでいる。
酔った勢いで小学校に行った。加賀が来年に校舎を改築するらし いと言ったことがきっかけだった。ここ数日、夜は冷え込んできて いた。死に物狂いでフェンスをよじ登り、校庭をずるずるのし歩く。 俺たちは生き霊か何かとまったく同じだった。 池のほとりで吐きそうになった赤木の襟首をつかんで近くにあっ たバケツにつっこんだ。赤木がうめいているそばで池の表面に波が 立ち、鯉の白い背が見えた。礼でも言ってるのかと都合のよい考え が差したが、鯉にとっては俺だって迷惑千万には違いない。 校庭に寝そべった加賀が言った。そういや原始人みたいな先生、 いたよな。川本がはしゃいだ。いたいた、なんて名前だったっけ? あー、出てこないなぁ。 それにしても須永先生最高だったな、と神田がぼそっと言う。最 高ってほどじゃないけどストイックなところがよかったな、と加賀。 どこがストイックだったのよ、川本が言った。全然優しかったじゃ ない。 「俺は!」突然赤木が飛び起き叫んだ。そこを神田が組み伏した。 馬鹿、うるさい。 お、俺は……赤木はそれでも続けた。俺はデザイナーになる、建 築デザイナーになってやるんだからな。そしてそのままぐたりとし た。 なんだ誓いの言葉か? 加賀が言った。そして頬をかいた。じゃ、 俺も。ふらふらと立ち上がる。俺、加賀隆一は、絶対外食系企業に 就職して、その頂点狙う、狙うからな。川本が手を叩いて喜んだ。 いぇーい。 俺はその場を離れた。昨日見たドキュメンタリー番組を思い出し た。その子供はぼろきれを幾重にもまとって目だけが異常に大きか った。 レポーターが聞く。――将来の夢とかって、あるかな? ――生きて、生きてたい。 校庭の端に、桜が植えてあった。遠目にはさほどわからなかった が、近寄ってみると樹皮がぼろぼろになっていた。丸裸ではなく黄 色い葉がわりかしついていたが、逆に未練たらしいものがあった。 加賀が言うにはこの桜も改築と同時に伐り倒されるらしい。表面を なでて感触を懐かしんだ。 まだ登れるか試そうと思い、止した。代わりに両腕を開いて幹を 抱えてみた。 まさか届こうとは思わなかった。指先がちょんとくっついた。か さかさした樹皮は頬に暖かだった。 もっと太かった、いや、小さくなった、小さいよな。……俺もお 前も、難民か。俺は飲みさしのビールを地面においてしばしぼうっ としていた。 そして、いまだ見ぬ春の夢に酔った。
いつものように街を歩く僕。周りを行き交う人々の中でも、年下 の女性には思わず眼が行ってしまう。今もすれ違った派手めな女性 に気を取られていたんだけど・・・。 「てッ」 小柄な女性と衝突。その瞬間、イロトリドリのカプセルが僕の中 から飛び出した。跳ね散り転がって行くカプセル達。 「すいません」 慌ててカプセルを拾う僕。 「ごめんなさい」 繰り返し彼女もカプセルを追う。 近くに転がっていた鮮やかなグリーンのカプセルを拾う。その中 にはカート大会で誇らしげな少年の僕が映っていた。確かこれは小 四のとき。上級生に混じって優勝したんだっけ。ピットでは油で汚 れたつなぎの親父が、親指を立て満足そうに笑っていた。 次のレッドのカプセルには学園祭のライブが映っている。一日中 飽きずに練習したギター。そういえば幼い頃からずっと、何かに熱 中してないと落かつかない感じがしていた。 オレンジには小学校の緒川先生。先生の優しさに惹かれていたの は事実だ。もしかするとあれは僕の初恋だったのかもしれない。 レッドには渡良瀬の花火大会。人ごみの中つないだ女の子の手は とても暖かった。流れ落ちる花火の残影がきれいだった。 イエロー。パープル。全てが今の僕を形作っていた。 グレーのカプセル。去っていく母さんの後姿。まだ幼かった僕の 記憶には、このときの後姿しか残っていない。離婚の真相は知らな いけど、多分親父の浮気が原因なんだろう。豪胆な性格だった親父 は若いころから良くモテていたようだ。実際、母さんがいなくなっ てからも何人もの女性が部屋を訪れていた。 実はこのとき母さんは妊娠していたらしい。そしてもともと体の 弱かった母さんは、女の子を産んですぐ逝ってしまったと聞いた。 それ以来親父は変わった。女性の姿は消え、最近ではめっきり老け 込んだ気がする。そして僕も変わっていた。だから今日も街を歩く。 最後に残ったのは見覚えのないホワイト。彼女のだろうか?僕が 右手を伸ばしたとき、丁度彼女もそのカプセルを拾うところだった。 その中には一枚の写真。微笑む親父と優しい女性の姿が映っている。 「やっと・・・会えた」 「お兄ちゃん?」 そしてこのとき、二人の心にニジイロのカプセルが輝きだした。
ある寒い冬の日の、深夜2時頃、私は家へ帰るために凍てつく風 にさらされながら一人歩いていた。 空には雲一つなく、月がとても輝いており、いつもは暗い夜道を 明るく照らしていた。 ふと空を見上げると月が夜空を照らしながらも、星がちらほら見 えている。私は冬の夜、一人で歩いているときはいつもオリオン座 を捜す習慣がついていた。なぜだか分からないがオリオン座が好き なのだ。 今日もオリオン座を捜すため夜空をぐるっと見渡した。簡単に見 つかった。オリオン座が見つかると同時にいつもの疑問がまた浮か んできた。 その疑問というのはオリオン座の中の星の一つと、その横の2つ の星で構成される冬の大三角形についてだった。 もしかしたらあの冬の大三角形の一角は全て60度の正三角形で はないのか。おそらく昔の天文学者はあの角度を分度器か何かで計 ったに違いない。もし本当に3つの角全てが60度の正三角形だっ たらさぞ興奮したことだろうに。 と、いつも思っているのだが、家に帰ると、さきほどの疑問など すっかり忘れていて、結局調べることもなく今まで来てしまったの だった。 今日もまたそうなりそうな予感の中、私はじっと冬の大三角形を 見ながら、心の中でその名前を何度も繰り返していた。 冬の大三角形かあ、冬の大三角形ねえ、冬の………。冬の? そこでまた新たな疑問が浮かんできた。冬の、ということは暦の 上で冬と対をなす夏にも夏の大三角形をいう星座があるのか?いや、 中三角形でもいい、小三角形でもいい、春でも、秋でもいい。他の 季節に三角形があるのか?と、にわかに興奮してきて、よし家へ帰 ったら早速調べてみようと思い、しかしその前にコンビニで買いも のをしなくては、と店に入り、出てきた時にはすっかり忘れていた のであった。
いきなりひな子がぶっ叩いたのだ。ひな子が、最近お気に入りの 「ぐんぐん」という喃語を喉元から絞り出しつつ高速ハイハイで裕 也君の背後に近づくと、思いっきり後頭部をぶっ叩いた。 砂場に冷たい空気が流れた。 延子はお人好しでも人望家でもない中途半端な性質を疎ましく感 じることがあった。例えば渋谷の交差点だ。 「NHKホールはどうやっていくのかね」で始まる老婆の言葉。そ れは「NHK歌謡コンサート」の素晴らしさであったり、渋谷の人 ごみについてであったり、新幹線を地元に引いてくれた「偉い」代 議士についてであったりした。延子は老婆の話を上の空で聞いてい る。街宣車の演説が耳につく。日本は大変なことになっているらし い。しかし、延子は遮ることができない。老婆の話も、街宣車の演 説も。 「公園通りをまっすぐに」 ようやく隙間を見つけて延子は呟く。マックでシェイクを舐めよ うと切実に思う。 「お幾つですかな?」と老人は言った。 砂場からひな子とずりずり退却してベンチに腰掛けていると、秒 速30程の老人が、小刻みに右手を揺らしながら近づいてきた。 ひな子が「ぐふふ」と笑いながら老人の右手を叩こうとして、延 子は慌てて自分の胸に抱き寄せた。 「おお、めんこいのう。じつはな」嫌な予感がした。「うちの孫も 同じくらいなんじゃよ」 そして話が始まった。どうしてなんだろう、と延子は思う。より によって、どうしてあたしなんだろう。老人の右手がさらに激しく 揺れる。ひな子が喜ぶ。老人は話を続ける。 「脳溢血で倒れたのが3年4ヶ月前じゃった」 老人はひな子の手を握ろうとするが、うまくいかない。砂場で母 子達の歓声が上がる度に延子は気が気ではない。 「焦れば焦るほど、リハビリは進まんかった」 老人は3年4ヵ月のリハビリストーリーを丁寧に語っている。ひ な子は眠い時の合図で、頭をぱんぱん叩いている。老人の右手が催 眠術師の振り子のように揺れている。冬の一日はたぶん短い、と延 子は思う。砂場の母子がひと組ふた組と去って行く。 「……で、ぼちぼち歩けるようになっての。今日、やっとこの公園 まで歩けたんじゃよ」 日は傾き、冷たい風が公園を吹きぬけると、最後の母子が帰り支 度を始めた。老人の話が終わったら、マックでシェイクを舐めよう、 寒いけど絶対に。延子はそれだけを考えながらひな子の体を支えて いた。
夜半、遂に我慢出来なくなって、私は私を呑み込んだ。狭い天井 を見つめ、ぬめぬめと半時間以上を費やし、私は私を嚥下した。 「物事に拘り過ぎる」「面白味の無い」「暗くて若さに欠ける」 「消極的な」「要するにつまんない」嫌われ者は、この世界から消 え去った。 翌朝はたいそう胃が凭れ、食欲は皆無だった。通勤途中、電車か らホームに降りると突然、喉に不快な感触が走った。洗面所に駆け 込み、鏡で見てみると呑み込まれた私の手が一葉の紙片を携えて、 手首まで這い出してきていた。私は周囲に気取られぬ様に紙片を素 早く掴み取り、手首を再度呑み込んだ。 「シアワセデスカ」会社に着いて、着席するのももどかしく開いた 紙片には下手くそな字が並んでいた。「お手紙ありがとう。お蔭様 で私はとても幸せです。自分自身に呑み込まれ、窮屈な思いを強い られて、やがて自分に消化されてしまう私の中の私に比べれば、私 はたいへん幸せです」昼休みに購入した食紅と爪楊枝を使って書い た返事を懐中電灯と一緒にビニールに詰め、輪ゴムで止めて、水と 一緒に流し込んだ。私の中の私は、それを受け取り、私の中でゆっ くりと姿勢を変えて読んでいるような気配だった。 帰宅後、一人テレビを見ていた。一日食事をしていなかったが、 空腹感は余り無く、疲労が身体を支配しようとしていた。無意識に 欠伸をすると呼気と一緒に紙飛行機が飛んで出た。開いてみるとく ねくねした字が並んでいた。 「お返事アリガトウ。ワタシは、ワタシを呑み込んでしまったワタ シが、そのことを悔やみもせず、シアワセに浸っていると知って、 なんだかとてもシアワセな気分になりました。おっしゃる通り、ワ タシはもうすぐワタシに消化されてしまう身の上ですが、ワタシを シアワセにすることこそがワタシの望みだったので、それが叶った 今はもう、ワタシがどうなってもかまいません。サヨウナラ」 私は私の手紙を読んだ。手紙を読んで涙した。涙しながら、自分 が消化されてもかまわないほどの幸せに包まれた私の中の私に思い を馳せた。私は私を羨ましいと強く思った。 羨望の念により、ささやかな優越感に支えられていた私の幸福は、 その土台からものの見事に崩れ去り、私は私の中の私より幸せでな い私に戻った。 私はまた悩みはじめた。 夜半、遂に我慢できなくなって、私は私を呑み込んだ。十三人目 の私もまた、ぬめぬめと胃袋に入っていった。満月の夜が近づいて いた。
西暦二千二百三十六年 厳冬 過激派強盗集団レッド=エスケープ総勢三百二十八人は逃亡及び 組織の立て直しの準備を着々と進めていた。 組織は数々の悪行を重ね、被害者は全世界で二十億人にのぼる。 しかしながら、世界警察によって現在まで約二百五十人の団員を 検挙されていることもまた事実だった。これ以上の団員の犠牲は、 組織運営に大きく影響を与える。誰一人として警察の手に渡すこと は許されないのだ。今や彼らの悪名は世界中の隅々まで知れ渡って いたので、国外への逃亡は危険極まりなかった。組織は最先端の科 学技術をもって逃亡を企てた。時空を越えての逃亡、すなわちタイ ムマシーンによる現在からの脱出である。だが、窮鼠集団レッド= エスケープには逃亡に際していくつかの問題があった。 一つはタイムマシーンの性能にあった。二十三世紀の最先端の科 学技術をもってしても、タイムマシーンの開発はまだ初期段階で、 過去には行けるが未来には行けない、年代は選べるが日時を選ぶこ とができない、などの条件があった。タイムトラベルは、一年のう ちで時空に歪みが生じる、ある一日だけにのみ可能だった。 もう一つに財産の持ち運びがあった。組織結成以来四十二年間で 強奪した物品の重さは三百六十トンにもなり、とても一度には持ち 運べない。これは一人に一トンずつ分配し、各自足がつかないよう に逃亡先の時代で、ある方法によって処理するということになった。 さらに大きな問題として団員たちの年齢があった。レッド=エス ケープの平均年齢は七十二歳とかなり高齢であるため、団員一人に 対して従者2人を同伴させることになった。従者に選ばれたのは、 クローン技術によって大量生産された、寒さに強いある生物だった。 逃亡時における問題への対処法は次の通りである。 1 タイムトラベルの行き先は、各時代十二月二十四日に設定す ること。 2 処理する物品は、罪の意識がない子どもに配布すること。 3 各人の従者は、クローンのトナカイ二匹を同伴すること。 雪の深々と降りしきるクリスマスの前夜。過激派集団レッド=エ スケープの団員は、足音も立てずに子どもたちに忍び寄る。 二匹の従者が引くソリに乗って・・・。
クリスマスが近いある日にサンタのおじさんとトナカイが喧嘩を しました「どうしたんだい?真っ赤な鼻をして。なにそんなにアン グリーなの?」理由わからず怒っているトナカイにサンタのおじさ んは困惑していました「鼻はお前のライト代わりじゃないんだよ。 ひげじじい。おいらはもうやってられないんだよ。なんで俺がソリ ひくのさ。夜空で。おかしいじゃん。メルヘンチックもいいかげん にしろよ。俺は羽はえてないの。そんなにメルヘン気取るならペガ サスにでも頼めよ!」トナカイは長年のソリひきに疑問を抱き、苦 しみ、傷付いていました。「ペガサスには断わられたんだ。ビジュ アル的に違うって。サンタレベルにはトナカイで十分だってさ。僕 の愛らしさもおまえのブサイクで持ってるところもあるんだよ」そ れを聞いたトナカイは激怒しました。「にゃにを。お前のヒゲデブ を愛らしくするために俺は毎年ソリをひいてるのかよ。やってらん ねえよ」トナカイは自分の自慢のツノを折りはじめましました「ツ ノなきゃシカだよ。シカ。せんべえ食って糞してればいいだよ。」 トナカイはグレはじめました。そんなトナカイを遠くから見ていた デヴィ夫人は言いました「あーらあなたはトナカイの義務をはてし てないじゃない。何をいってるんですか」デヴィ夫人は激怒し、降 番しました。それをぼーぜんと眺めるみのもんたは黒光りしていま した。「シャクティーパット!」サンタのおじさんはトナカイの頭 を叩きました。「馬鹿いってんじゃないよ。おまえは夢を運ぶため に生まれたメルヘンな動物だ。それを拒否したら鉄砲で撃たれて、 知らない家の壁に顔だけ飾られちゃうんだぞ。定説なのです。」涙 して激怒するサンタのおじさんをみのもんたは必死に押さえてトナ カイにいいました「いいかい。朝はココアだよ。絶対。」ますます 黒光りしているみのもんたはちょっと発光してました。サンタは微 笑で言いました「そうだ!こうしよう。今年は俺がソリをひく。お まえがプレゼントを配ろう」やさしさの雨あられに討たれたトナカ イは仕事に復帰しました。しかし、プレゼントを配るトナカイは家 畜管理衛生法にふれ、プレゼントをぜんぜんくばれませんでした。
その建物は、突然住民たちの目の前に姿を現した。 誰が何のために建て、一体誰が住んでいるのか知る者はいなかっ た。幽霊が住んでいるのではないか、とか宇宙人の仕業ではないか といった諸説が飛び交っていたが、真相は明らかになっていなかっ た。怖くて誰も入ろうとしなかったからだ。あんなところに入るの は余程の命知らずか、愚か者だろうと近くに住む者は自分は入りた くないというのを遠回しに口にしていた。 ある日、各地を旅している男がその地を訪れた。 彼はこれまで不思議な力によって空中に浮遊したり、一瞬にして 遠くの場所に移動してしまうという経験をしていた。その為、彼は 日頃から自分の力を過信し、自ずから危険な場所に赴く傾向があっ た。そういうこともあり、住民からその話を聞いた彼は勇んでその 建物に向かって行った。 周りからの再三の忠告、警告を無視し彼は今ドアの前に立ってい る。 「・・・・・・ふむ。確かに怪しいな」 男は深呼吸を一つした。 「よし」 鍵はかかっておらず、簡単に入ることができた。幾分か拍子抜けし た彼は二歩三歩と歩を進めた。中は真っ暗で物音一つしなかった。 中心くらいまで来て、男は驚愕した。物音がしないのも当然だった。 何もものがないのだ。椅子やテーブル、階段さえもないのだ。 男は何か嫌なものを感じた。はっきりと何かとは分からなかった が、それは確実に彼に恐怖をもたらした。 その時、外から声がした。 「大丈夫ですか、旅のお方」 男は振り返ろうとしたがそれも叶わなかった。足に得体の知れな いものがからみついていたのだ。 「来るな。来てはならない」 「しかし・・・・・・」 「いいから来るな」 悲痛に満ちた男の声は、ゆっくりと住民たちの足を動かした。 次の日、男の姿はなくなっていた。 「そういうことがあったんだ」 感心したように男の子は言った。 「ああ、それ以来あそこには誰も近づかなくなったんだ。今考える と、あのお方が身を挺して我々を守ってくれたのかもしれな・・・ ・・・」 そこまで話すと、少年がもう眠りについていることに気づいた。 父親は微笑みながら、長く伸びた少年の触覚をなでた。 その館には血のような赤い文字でこう書かれていた。 「どんなゴキブリでもイチコロ! 必ずしとめます」
いつも朝になるとどうしてもぎりぎりに飛び出すはめになってしま う。駅までの道をずっと小走りで通り過ぎる。 おかげでまだ一度も声を掛けたことがない。お嬢さん… いつもお嬢さんは庭で日光浴をしている。体が弱いのかも知れない。 低い植え込みの垣根から、ちらりとそのくるくる巻き毛の白い横顔 を覗くことができた。いつもおばあさんらしき人と一緒で、見咎め られそうで足をとめたことさえない。 だが、わたしがお嬢さんに近づくのをためらってしまうのは他にも 理由がある。 お嬢さんのそばには、いつも色黒く精悍な表情をしたナイトが居る のだ。 ナイトというのは勿論お嬢さんと同様、その風貌からわたしがつけ た呼び名である。 お嬢さんとどういう関係かは分からない。おばあさんとお嬢さんを 守るように、ひっそりと側に居る。。 わたしはもともとお嬢さんタイプは苦手というか嫌いだ。自己顕示 が強くてちやほやされてといったイメージがある。 しかしお嬢さんは一目見たときから違っていた。儚げで可憐で、守 ってあげたくなるようなお嬢さんの細い、小さい背中。 季節が移り、冷え込む日が多くなると、お嬢さんを庭先で見かける ことがめっきり減った。 ナイトだけ居ることもあったが、快晴による放射冷却で冷え切った 晩秋のある日を境に、お嬢さんもナイトも全く姿を見せなくなった。 2ヶ月、3ヶ月経ってもお嬢さんはいない。寒いから出てこないだ けだろうか。それとも…。 ごくたまに、おばあさんだけみかけることもあったが、とてものこ とに尋ねてみる勇気はなかった。 さらに1ヶ月ほど経ち、少しずつ暖かい日が増えてきても、わたし の目の前にお嬢さんは現れなかった。 お嬢さん。 その日、目が覚めると大遅刻だった。いつもの庭先も大急ぎで駆け 抜けようとした…その時、わたしは驚愕の光景を目の当たりにして、 思わず立ち止まった。 ナイトがいる。おじょうさんはいない。しかしいるのはナイトだけ ではない。 ナイトは横ずわりをして、ナイトにそっくりな子供たちに授乳して いた。 「ナ、ナイト!」 ナイトは、女性だったのか。しかも、おかあさんになって。 父親はだれだろう? そう思ったとき、二匹のうち一匹はナイトと同じ全身黒だがもう一 匹は、首のまわりに白い、くるくるした毛が生えているのに気が付 いた。最初は首輪かと思ったが、目をこらしてみる。 やっぱり毛である。マルチーズ犬のお嬢さんのに、そっくりな毛で ある。
夫が桃と浮気をしているのを知ったのは、通勤鞄のチャックつき ポケットの中に、たまたま何かの拍子に手を深く突っ込んで、メモ とテレホンカードを見つけたときだった。 「電話してねっ。待ってます!」と、桃のチラシ柄の透かし模様の 入った紙に、丸文字。そのメモにはハワイアンダンサーズの写真の テレホンカードが挟まれていた。「スパリゾート・ハワイアンズ」 にでも行ったときの土産なのだろう。 夫は、わたしの追及を暫くはのらりくらりとかわしていたが、そ んなダサいテレカをよく渡せたものだと嘲笑された途端、顔色を変 えて怒り出したので、あっさりとばれてしまった。 「別れてよ」とわたしは言った。 「うーん」と夫は言った。 どうも未練があるらしい。 そんな会話を何度もくり返す日々を何度も何度もくり返した頃、 桃が話をしに来ると言ってきた。どうやら本気らしい。なんてこと だ。桃がわたしの夫に本気なのだ! なんてことだ! 「奥さん」と、桃は、出されたこぶ茶を小さな音をたててすすって から言った。 「なんでしょう」と、わたしは落ち着き払った態度で答えた。 「うふ、あの、うふ、あたし、ご主人と、あの」 桃はうつむいて首をわずかに左右に揺らしながら、さも遠慮して いるような口調で続ける。 「早くおっしゃってくれないかしら」 わたしは、背筋をぴんと伸ばして妻の威厳たっぷりに言い返す。 「あのね、奥さん、ちゃんとね、聞いて下さるかしら」 「聞いてますわよ、どうぞ」 「うふ、じゃ、言わせてもらいますけど」と、桃はうつむかせてい た顔を上げて、わたしを正面から見つめる。途端、やわらかそうな ピンク色の肌がわたしを刺激する。 「ご主人とあたし、愛しあってますの。うふ、おわかりでしょ?」 わたしは歯を食いしばって桃を見返す。愛しあってる! 桃と夫 が! よりによって桃と夫が! 「主人は遊びだと言ってましたわよ」と、かろうじてわたしは答え る。桃が、にっと笑う。わたしを。妻のわたしを。 瞬間、わたしは夢中で桃の顔につかみかかる。桃の、やわらかな 産毛につつまれた肌に、爪をたてる。薄い皮がつるっと剥けた。白 いつやのある肉があらわになる。甘い香り。拍子に、夫と桃がから み合っている姿が、わたしの脳裏にうかぶ。白い桃の肌にとろんと とろけそうな表情で触れている夫の姿。 力が抜けて、わたしは桃から手を離す。 桃は、剥けた皮を左手で元に戻しながら、わたしを見てふふ、と 笑った。
大学を卒業して二年。気が付いたら腹が出て来た。高校、大学と陸 上部だった僕はまさか自分の腹が出てくることがあるなんて思って もみなかった。それでも肥満という程ではなかったし、僕は全体的 にスリムな体型をしていたのでそんなに気にしていなかった。 でもこの夏、大学の陸上部の友人達と海に行った時、片思いだった マネージャーの娘にこう言われた。 「え〜、それ◯◯君の体じゃないよ〜」 次の日から僕は毎晩仕事が終わってから5kmのジョギングを始めた。 はじめは体が重くてとても続けられる気がしなかったが、少しづつ 体重が減って、腹のまわりが締ってくると反対に走らない方が気持 ち悪いと思うようになった。二ヶ月もするとスピードもどんどん上 がってきてダイエットの為だったジョギングが、市民ロードレース 大会に出場するためのトレーニングに変わっていった。 ある晩、いつも通る郵便局の前の歌壇の縁に大学生位のカップルが 座っていた。こんなところじゃないと夜に二人きりで会えないのか と気の毒に思ったが、他に誰も歩いている者もいない夜中にいちゃ ついているカップルの前を一人ではあはあ息を切らせながら通り過 ぎるのは気分の良いものではなかったので帰りはコースを変えた。 それから三日程した晩、また同じ花壇のところにあのカップルが座 っていた。二人の前を僕が通り過ぎた後、笑い声が聞こえた。僕は とても不愉快になった。それはなにも僕のことを笑ったとは限らな いのに、僕は心の中で 「ばかやろう。そんな彼氏よりおれの方がいい男だぞ」 と怒鳴った。 それからしばらくはそのカップルを見かけなかったが、二週間程た ったある晩、同じ場所でその二人に出会った。いや、出会ったとい うのは適切ではないかもしれない。いつものようにその二人の前を 通り過ぎた。 でもちょっといつもと違う。男の子が泣きながら花壇から立ち上が って、女の子がその後ろに立って何か声をかけている。走り去る僕 の目にはそれだけが飛び込んできてあっという間に僕の背後に消え ていった。 それから何日、何週間たってもその二人は花壇のところには現れな かった。僕はすごく気になってくる。どうしたんだろう。あの二人 は別れてしまったのだろうか。 とにかく僕と花壇、それぞれの世界にそれまでは存在しなかった二 人の恋人が現れてまたどこかへ消えてしまった。その寂しさをそこ を通り過ぎる度に花壇と僕は確かめあっている。
「珍しいコレクションが増えたので見に来て下さい」 口調は丁寧だったが、有無を言わせぬ響きがあった。早野とは、 うちの雑誌で彼の時計コレクションを取材したとき、何度か顔を合 わせただけのつき合いだった。断ろうと思えば断ることも出来たが、 何かを匂わせるような彼の口振りに引かれ、訪問の約束をした。 早野は笑顔で私を迎えた。通された居間で、挨拶もそこそこに私 は切り出した。 「で、珍しいものとは?」 部屋のドアがノックされ、トレイにカップを載せた女性が入って きた。それは、私の妻だった。 「絶対音感というのをご存知でしょう」 早野が唐突に口を開いた。面食らいながら、妻から彼に視線を移 す。早野は傍らに立つ妻を愛おしそうに見つめながら続けた。 「それと同じように時間についても、生まれながらに絶対的な感覚 を持っているひとがいるのです。絶対時感とでも呼べばいいのです かね。原稿を持ってあなたの家にお邪魔したとき、奥さんの話に私 は驚かされました。時計がなくても時間が分かりますから、私には 早野さんのように沢山の時計は必要ないんですよ、奥さんは笑いな がらそうおっしゃいました。それから何度か奥さんを試させてもら いました。間違いなく彼女は絶対時感の持ち主です」早野は一旦言 葉を切り、私の顔を真っ直ぐ見た。「私は奥さんをコレクションに 加えることに決めました」 「馬鹿な」私はソファーを立ち、妻に言った。「帰るぞ」 彼女は首を横に振った。 「私はここに残ります」 「何を言ってるんだ。こいつはお前をコレクションにするといって るんだぞ。お前をもの扱いしてるんだぞ」 彼女の頬に冷たい笑いが浮かぶ。 「私をもの扱いをするのは、あなたも一緒よ」 「何を言うんだ。私がいつお前を……」 「いつもよ。それに彼は私を愛してくれているわ。――たとえそれ が時計としてででも」 言葉に詰まる。その瞬間に私と早野の勝負は着いた。私には黙っ て部屋を出て行くしか術がなかった。 駅へ帰る道すがら、未練がましくも妻との想い出が蘇る。結婚式 のときベールをケーキで汚し泣きかけていた顔。初めての結婚記念 日に贈ったバラに埋もれ輝いていた顔。そして、バラの匂いをかぎ ながら呟いた言葉……。 駅前の花屋で私は店中のバラを買い占めた。早野の家へ、妻宛に して送る。あの日、バラに囲まれた彼女が、うっとりと呟いた言葉 を頼りに。 「ねえ、こうしていると時の流れが止まったみたい」
朝、出かけに郵便受けを覗くと小さな紙切れが入っている。 「ちょっと会いたいんだけど ちー君より」 と書いてある。 問題は、僕が「ちー君」という人物を知らないことだ。 だいたい「会いたいんだけど」と書いてあるだけで、どうやって 会えばいいのか解らない。 仕方なく出かけることにする。 大学に行くと、麗子に声を掛けられる。 「やあ、元気ー。今日は早いねー、あ、そういえばねえ、ちー君が 探してたよー」 「ちー君って誰?」 「えー? ちー君だよー、ちー君んー」 「誰だよ」 「ちょっと、冗談? あ、あたし授業B棟だから、行かなくちゃ。 ちー君によろしくねー」 喫茶店に行くと吾郎がいて、いつものように一緒にだべっている と、突然思い出したかのように話し出す。 「おう、そういや、ちー君がさあ、おまえのこと探してたぜ」 「だからさあ、ちー君って誰だよ?」 「ははははは」 「おい、なに笑ってんだよ」 「おまえ、冗談きついなあ」 「ちー君なんて、知るわけないだろ」 「ははははは」 「誰だよ」 「ははははははははははっははっははっはあははははははははあは はははあはははははははははははははははははははははははははは はははははははははははははっはははははははははははははははは ははははははははははははっはははっははははははっははは……」 「お、おい……」 「ははははははははははっははっははっはあははははははははあは はははあはははははははははははははははははははははははははは はははははははははははははっはははははははははははははははは ははははははははははははっはははっははははははっははは……」 そこで携帯電話が鳴る。 「もしもし、お母さんだけど元気? あのね、さっきちー君から電 話があってね、あんたに会いたがってたわよ」 「ちー君って誰だよ」 「あらあ、ちー君よ、ちー君。よく家に来たじゃない」 「知らないぞ。名前は? 名字は、名字は何だよ。なんて言うんだ よ?」 「ああ、名字ねえ、えええっと、ほら……なんだったかしら、ほら あ、あんた知ってるでしょ」 「知らないって」 「うそ」 「うそじゃない」 「うそよ。ええっとねえ。なんだったかなあ、(プツ)あ、キャッ チ入っちゃった、じゃ、ちー君にねえ……」 夕方、アパートに戻ると、見知らぬ男がいた。 男は僕の部屋で勝手にお茶を入れ、テレビでニュースを見てい た。 「やあ」 と、その男は言った。 「会いたかったよ」
太一はいじめられっこだった。 そのおどおどした態度から、言われるまで気付かないような右目 尻の横にある小さなほくろまで、太一を作る要素すべてが、いじめ られる原因だった。 そして今、太一は昨日までとは違う学校の教室の前に立っている。 先生が、太一をクラスのみんなに紹介している。太一は顔を上げ ることが出来ずにいた。胸の鼓動の大きさは頂点を極め、目だけを きょろきょろ動かしていた。ふと左ひじの上にある小さな黒い点に 目をやった。ほくろにも見えるそれは、鉛筆の芯が刺さった跡だっ た。おかげで太一は、思い出したくもない前の学校での毎日を思い 出していた。 先生の声に我に返り、言われるがまま顔を上げるとみんなニヤニ ヤして自分が馬鹿にされているように感じた。 そして、言われるがまま廊下よりの空いた席に着き、何事も無か ったかのように授業は始められた。 授業が始まってしばらくして、つつつと自分の鼻から鼻水がゆっ くり流れ出てくるのを感じた。 昨日の晩、緊張して夜遅くまで起きていたのがたたったのだろう。 ずずずと鼻をすすってみたけれど、鼻はつまって鼻水は速度を変 えずにゆっくりと流れ出る。太一は、ティッシュを持っている。し かし鼻をかめないでいた。目立つのが嫌だったのだ。ここで鼻をか むと、授業が終わって何を言われるか分からない。でもこの鼻水が 垂れているのがばれてもいじめられる。もうこの教室から逃げ出し たかった。太一は、天井をみて少しでも流れる速度を遅くした。で もそんな努力を嘲笑うかのように鼻水は太一の上唇にまで達した。 そんなとき、ちらっと横に目をやって太一の背中が凍り付いた。 隣の席の男の子がこちらをじーっと見ていたのだ。やはり天井を 見るなんて不自然な行動が、みんなの視線を集めていたのだ。 「もうだめだ。この学校でもいじめられる」 絶望感で胸がいっぱいになったとき、 「じゅるじゅる!」 その男の子がすごい音を立てて鼻をかんだ。太一がビックリする 間もなく、誰かが背中を突ついて、すっとティッシュを差し出し、 その子も負けじと鼻をかんだ。隣の子は横目でこちらを見て、何か のサインのように軽くウィンクをした。太一は彼らの気持ちが分か ってしばらく何も出来ずにいたが、そのあと気付いたかのように 「じゅるじゅるじゅる!」思いっきり鼻をかんだ。 「なんだこの教室だけ、いやに風邪が流行ってるな」 先生が、そういってクラスのみんながどっと笑った。 もちろん太一もその中にいて、腹を抱えて笑った。
作品受け付け/11月9日〜11月30日迄(終了)
作品発表/12月1日〜
人気投票受け付け/12月3日〜29日迄(終了)
結果発表/12月30日
第10回1000字バトルチャンピオン
越冬こあらさん作『回帰』に決定です。
越冬こあらさん、おめでとうございます!!
| 作品 | 票 |
|---|---|
| 回帰(越冬こあら) | 6 |
| 独り言(百内亜津治) | 5 |
| 微妙な関係・リバランス(小沢 純) | 4 |
| 桃(一之江) | 3 |
| 進化の果てに(羽那沖権八) | 3 |
| 時計蒐集者(藤次) | 2 |
| 冬将軍の到来(日向光陰) | 2 |
| GIRL(小林知恵) | 1 |
| 本音と建前(MOMO) | 1 |
| お嬢さんお手をどうぞ(埜間夏太) | 1 |
| 帰らずの館(極楽天) | 1 |
| 占いの館(川名さちよ) | 1 |
| ある夜中に(いか) | 1 |
●回帰(越冬こあら)
●独り言(百内亜津治)
●微妙な関係・リバランス(小沢 純)
●桃(一之江)
●進化の果てに(羽那沖権八)
●時計蒐集者(藤次)
●冬将軍の到来(日向光陰)
●GIRL(小林知恵)
●本音と建前(MOMO)
●お嬢さんお手をどうぞ(埜間夏太)
●帰らずの館(極楽天)
●占いの館(川名さちよ)
●ある夜中に(いか)
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