第11回1000字小説バトル
Entry10
「し、死んでるっ!」 川島は浴室を覗いて思わず叫んだ。後から来た響子はその光景に 口を手で押さえ、嗚咽を漏らした。 聡美はパーティーの時に着ていたドレスのままで、水で充たされ たバスタブに浸かっていた。大量の出血のせいか、浴槽はまるで血 の海と化していた。 「これは大変な事になったな・・・」 橋口が漏らした。川島はその言葉を聞き、確かにこのパーティー が聡美の新たな旅立ちを祝うために開かれたものだった事を思うと やりきれない気持になっていた。 「さ、聡美っ!」 芳江は浴室に飛び込むと浴槽から聡美の身体を起こし、抱擁しな がら悲鳴にも似た泣き声を上げた。 「おい!警察が来るまでは勝手な事はしない方が」 終わりまで言いかけた橋口を響子が制した。 「芳江と聡美は、高校の頃からの親友だったのよ。警察には申し 訳ないけど、少しの間あのままで居させてあげて」 川島も橋口の方を見ながら響子の言葉に肯いた。 橋口は二人の表情に鼻から大きく息を吐くと、泣き声の反響する 浴室の方を見つめた。 「ところでフロントに連絡は?」 響子が言った。部屋にいる人間は顔を見合わせた。 「それじゃ、俺が行ってくるよ」 入口の側にいた北村が部屋を飛び出した。 気持の落ち着かなくなった川島は内ポケットから煙草を取り出す と、橋口に勧めた。二人はひとつのライターで火を分け合い、大き く煙を吸いこんだ。 それから20分もしないうちにホテルに警察が・・・ねえ、こん なもの読んで楽しい? 私はちっとも楽しくないわ。大体こんな殺風景な話を好むなんて、 あなたも相当つまらない人なのね。 もっと楽しい話をしましょうよ。例えば、明日の事とか。 ああ、あなたみたいな人に明日の事を聞いても「明日も今日と変 わらない」とか言うのかしら? うふふ。 それじゃ、私の話を聞かせてあげましょうか? 私はね、田舎町 の資産家の娘なの。この年まで一度も働いた事がないから、あなた みたいな人のつらさは想像でしか言えないわ。 恋。恋も何回かしたわ。 最初の恋は12、3歳の頃だったかしら? 相手は2歳年上の、 とても背の高い人だったの。・・・ 疲労が溜まっている時に本など読んではいけない。200頁ほど の分量のうち、3分の2がこの女の話に変わっていた。 犯行は北村と芳江の不倫のもつれによるものだったが、隙を見て は僕の手に取る本に現れるこの女の正体はいまだに謎である。
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