第11回1000字小説バトル
Entry11
椿の枝さえ凍えた今日未明、私しは息を引きとりました。 陽光が反射して漆塗りの棺に入れられて、赤く紅葉した南天、黄 色い菊、青紫の桔梗、病気で小さくなった私しの身体は、色とりど りの花々に埋められて綺麗に寝かされております。棺の横には、近 所のお友達、稀にしか会わない親戚、愛しい息子たち、そして、泣 き崩れるおっとう、ああおっとうよ泣かないで、私しはおっとうが 心配でなりませんで、心持ちの弱い人でして私しがいなければ何も できないのです。この葬式の多忙のさ中、誰も彼の喘息の持病を心 配することはできないでしょう。 皆が焼香をあげて、葬式の退屈に飽きた子供たちがはしゃぎ出す 頃、幼少を知っている近所の若い青年たちが筋肉を軋ませながら、 私しの入れられた棺を軽々持ち上げて外に運び出しまして、そのと き暗い曇り空からは霰雪が降ってきまして、雪が黒い棺に降りかか って私しの頬からは涙を流したような滴が一筋垂れました。樫や椎 の雑木林が遠くに見える畦道を抜けて、奇妙な葬列は続いていきま した。めいめいが最後の別れを終えますと、木組みにとめられた縄 で棺を吊り降ろしまして、重く湿った土が鈍い音を立てながらかけ られていきました。頼りになる息子に成長した冬也に抱きかかえら れて、おっとうは激しく咽び泣きまして、遠い血縁の親戚の人たち も涙を浮かべずにはいられませんでした。 これから独り身になったおっとうは、私しが死にましたら後妻を 貰って下さいねとお願いしたとき、貰うものか、愛しているのはお 前だけだと、私しに言ってくれましたね、きっと本当に貴方は再婚 しないでしょう。ああ、その貴方のやさしさが、おっとう自身を不 幸にするでしょう。 私しには時間が残されてありませんで、もうすぐに、行かなけれ ばなりません。天空からのお迎え、――私しを愛くるしく育てて下 さった両親が、もうすでに私しを迎えにやって来る時頃です。 「まア、黄色い蝶々が、お空に昇っていくよ」 「綺麗だあね。あの黄色い蝶々は、亡くなった奥さん生まれ変わ りなのよ」 「うちのおっとうも、何かに生まれ変わってるうん」 「そうかもしれないわね」 「ふふっ、まアの髪に止まったあ」 「ふふっ、ほんとうに綺麗ね」 「まアに、おめでたいことがあるのかもしれんなあ」 「そうだあね」 奥さんを亡くした夫と、未だ十尺ほど離れたところで、おりんと その子供は、早春の空を見上げていた。
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