インディーズバトルマガジン QBOOKS

第11回1000字小説バトル
Entry14

狂気

作者 : Sagi
Website : http://homepage1.nifty.com/Sagi/
文字数 : 999
 壁に飛び散る鮮血。争いの跡。体中を朱に染め、仰向けに転がる
死体。殺人現場の情景として特筆する点があるとすれば、それは死
体の額だけがきれいに拭われ、業務用と思しきスタンプで『1』と
記されていたということだ。
 到着した刑事たちは真剣な面持ちで現場に入って行く。ベテラン
の刑事でも眼を背けたくなる凄惨な死体に、刑事研修中の渡辺は思
わずトイレに駆け込んで朝食のスクランブルエッグを見事に再現し
てしまった。最悪の出会い。そう、これが渡辺とヤツ――連続殺人
鬼スタンパー――との戦いの始まりであった。

 渡辺が正式に刑事となった翌日、河原の仮設トイレの脇で撲殺さ
れた被害者が見つかった。額には『3』のスタンプ。先週末には『
2』の死体が首都高速の高架下で発見されたばかりだった。いずれ
も物取りの様子はなく、これらの被害者を繋ぐ事実も見つからない。
何より連続するスタンプの番号が担当する刑事たちの焦燥感を煽っ
ていた。

 捜査に東奔西走する渡辺。しかし努力も空しく被害者の数は増え
ていった。高層ビルの屋上、体育用具室、歩道橋・・・。ヤツはま
さに神出鬼没だった。極秘であった額のスタンプの情報もどこから
か露出し、マスコミは連続殺人鬼の存在(スタンパーと名付けたの
は彼らだった)と警察の無能さを連日トップで伝えていた。警察の
体制強化にも関わらず、死体のカウンタは着実にインクリメントさ
れていった。

「ナベさん」
 死体に顔を歪めた藤田が声を絞り出す。いつしか渡辺にも部下が
つくようになり、髪には白いものが多く混じるようになっていた。
「今回も――」
「ヤツだ。この『101』ってのが俺たちを嘲笑ってやがる」
 うす曇の空を見上げ、渡辺はコートのポケットを探る。取り出し
た煙草を咥え背中を丸めて火をつけた。ゆっくりと煙を吐き出す。
「でも百人目のガイシャが見つかってから、もう十何年も経ってる
んですよ」
 藤田の言葉に渡辺は鋭く噛みついた。
「だからなんだ、え。キリがいいからってヤツが終りにしてくれて
たってのか?」
「そんな――」
「上の奴らも上の奴らだ。俺が何度言っても耳を貸そうとはしなか
った。ヤツは脅迫観念に取り憑かれてるんだぞ。狂ってるんだ。人
を殺るってことをライフワークだと勘違いしてる。だから――」
 死体を見下ろしながら渡辺は言葉を継いだ。
「――続くさ、これからもな」
 その眼差しはまるで愛おしいものを見るかのように優しかった。






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