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第11回1000字小説バトル
Entry15

赤い雨の少女

作者 : 村田秀人
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文字数 : 835
「綺麗な雨」窓の外に降る赤い雨を見て、摩耶は、そっと呟く。
不思議な少女だった。授業中、わたしは、教壇から彼女の横顔にし
ばらく見とれた。
数年前から日本全国に降り出した赤い雨。見る人の気持ちを暗くす
る血のような色だった。摩耶だけが、この雨を美しいと言う。
わたしの知る限り、この雨に好意を持つ人は他にいない。担任教師
として何度か話したことがあるが、どこか現実離れしていた。
「どうしてこの雨は赤いのかしら」
いつだったか、摩耶がきいてきたことがある。
「雨の中に微量の鉄分が含まれてるらしい。それが日の光に反射し
て真っ赤に見えるんだ。何故そうなったのかは、わからないけどね」
「何だ鉄なの」
「何だと思っていたの」
摩耶は小首を傾げた。
「わかんないけど、この世の雨とは思えないの」
「先生、どうかしたのですか」
最前列の座席から、生徒が声をかけ、わたしはハッと我に返った。
摩耶の視線は、降り止まぬ雨に注がれたままだった。
数日後の放課後、その摩耶が死んだ。
その日は朝からずっと赤い雨が降っていた。
帰途、駅へ向かうわたしの眼前で、横断歩道を渡る彼女は、信号無
視の乗用車に跳ねられたのである。その小柄な体が一瞬宙に浮き、
路面に叩きつけられた。
おどろいて駆け寄ったわたしには、彼女がすでに虫の息であること
がわかった。携帯電話を取り出して、救急車を呼んだ。
あっと言う間に大勢の野次馬が集まった。
額から流れる多量の血が、赤い雨に洗われて、流されていく。
「摩耶、しっかりしろ」
わたしは、薄目を開く摩耶の耳元で空し呼び続けた。
すると血の気の失せた唇が弱々しく動いた。何かを言おうとしてい
る。わたしはその言葉を聞き漏らすまいと、彼女の口元に耳を近づ
けた。
「綺麗だね」
と、摩耶は言っていた。
その目はアスファルトの路面に流れる赤い雨と混ざり合った自分の
血に向けられていた。
わたしは頷くしかなかった。
頷きながら、不覚にも微笑んでしまった。
やがて、摩耶は静かに目を閉じた。遠くから救急車のサイレンの音
が近づいてきた。






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