インディーズバトルマガジン QBOOKS

第11回1000字小説バトル
Entry17

いい男

作者 : 佐藤ゆーき
Website : http://d2.dion.ne.jp/~syuki
文字数 : 990
 僕は女の子にもてたことがない。顔は悪くないと思うし、国立大
学だって出てる。スキーは二級を持ってるいるし、週に三日は五キ
ロのランニングを行っている。仕事は医療機器メーカーの営業で給
料も申し分ない。でも僕は女の子にもてたことがない。その現実は
僕から自信を奪い、まわりに気を遣ってばかりいる卑屈な男にして
いた。つまりはもてない悪循環に陥っていたのだと思う。
 確かに女の子にもてないくらいでおおげさなと言われるかもしれ
ない。でも僕は本当はもっともてるはずだと信じていたし、今の自
分の人生は僕の本来の人生ではないとさえ思っていた。それにどん
な人生が僕の本来の人生だったとしても、二十代前半の男にとって
究極的に女の子にもてたいという以上の望みがあるのだろうか。
 とにかくそうやって僕はどんどん自分の理想の僕からかけ離れて
いって、時には自分に絶望して暗い部屋の中で涙を流すこともあっ
た。そして酒の量が増えていった。
 酒を飲んだ時、僕は少しだけ卑屈な自分から逃れて堂々としてい
られることが出来た。でも僕はその開放感のために調子に乗ってま
わりの人たちを傷付けることになった。そういうことは大抵僕のお
ぼろげな記憶の中で起こっていたが、そのために次の日僕は自己嫌
悪と頭痛と吐き気の中で一層深い絶望感に襲われて何度も死のうと
思った。でも僕には死ぬ勇気もなかった。
 嫌いな自分から逃げようとして余計に自分を嫌いになり、またそ
れから逃れるために僕は走った。しんどい思いをして自分の体を追
い込むことで自分に対するいらいらを忘れようとした。毎回五キロ
のタイムを測って少しづつその設定を上げていった。
 でもその自己嫌悪と絶望から逃れるというネガティブな目的の為
のランニングは、またも僕を調子に乗せて僕を誇らしい気分にさせ
ていた。学生の頃ならいざ知らず、社会人になってまでこんなにし
んどい思いをして自分を追い込むことが出来る僕はやはりただ者で
はないと思う。こんな人知れず汗を流している僕の姿を見たら僕に
惚れない女の子はいないだろうと思う。でも世の中には僕よりずっ
と努力している男が数えきれない程いるだろうし、僕が行っている
ことも単なる自己満足にしか過ぎなくて、僕の理想の自分にも他の
どこにも辿り着かない
 それでも僕がいつもこれだけ自分を律することが出来たなら、僕
はもっとましな男になれるのではないだろうか。






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