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第11回1000字小説バトル
Entry2

死神のテニスボール

作者 : 俊
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文字数 : 999
 ある日の夕方公園で、テニスボールが飛んできた。投げ返そうと
そっちを見ると、死神がいた。死神は歯をかちかち鳴らして言った。
「へこむくらい、握りしめろ」
 ボールは結構固かった。指に力をこめると少しへこんだ。カチッ
と音がした。
「それはお前の魂のスイッチだ」
「は?」
「押してる間は生きてられる。離せば死ぬ。そしてお前は連れて
かれる。OK?」
「OKじゃないな」
「いやいや、いいから。握力のある間が余生だ。心残りがあればそ
の間にな」
死神は消えた。ばかばかしいので手を開いた。ボールはてんてんと
転がった。死神がまた現れた。風がふき、ボールはもう少し動いた。
二人でしばらくそれを見ていた。
「死なないな・・・」
「・・・死なないな」
「どうしてかな・・・」
「・・・俺に聞くの?」
また風がふいた。なにか悲しい感じがした。二人とも黙っていた。
黙ったままベンチに座り、夕日を見ていた。ボールは微妙に動いた。
「あの・・・何でテニスボールなの?」
「野球の硬球は硬すぎるし、ゴムボールは柔らかすぎる、テニスの
ボールはその点絶妙のバランスだって説明書にはあった」
「そういう事じゃないんだけど・・・説明書?どこで買ったの?」
「通販で買った。ノルマきつくてな。殺したら楽かと思って」
「殺したら?」
 日が沈む。ボールは動く。頭の中でも脳が動き、口が開いた。
「君は死神だよね。つまり死を司る」
「まあ、そうだね」
「で、そのボールのせいで俺は死ぬとこだった訳だ。これはつまり
ボールをよこした君が殺すってことだ」
「うん、まあね」
「なんか話がおかしくない?」
「え?」
「殺すと死ぬは違うから、君の職権を超えてるってことだよ。多分
そのボールは、不良品でさえないぜ」
「・・・ハメられた?」
「そうだね。地道にいけってことだ。ノルマがあるのなら」
「これを誰かに握らせてくれないか?」
「同じ事だよ。法律で言う殺人教唆にあたる」
「訴えてやろうかな。高かったし」
「ノルマは?金は?」
日はすでに沈みきっていた。死神は黙って僕の手にテニスボールを
ねじこみ、消えた。やはり、少し悲しかった。テニスボールの蛍光
色が、夕闇に浮き上がってみえた。
 その日以来僕は、頭の悪い観念的存在というものについて考える
ようになった。ボールは、靴箱の上に健在だ。それを見るたびに、
彼は訴訟を起こしているだろうか、やるなら物証にこれが必要なは
ずだが、と思う。未だに取りにくる気配は無い。






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