第11回1000字小説バトル
Entry24
周りの部員は気を使ってくれたのだろうか、大会直後に行われた ミーティングをボイコットして帰る和樹を咎める者は誰一人として いなかった。 インターハイへの出場権をかけた柔道の県大会。和樹にとっては 三度目であり、最後のチャンスであったが、結局和樹は三年連続し て決勝で同じ相手に敗れた。 脱力感に襲われ、駅まで歩く気力も無かった和樹は会場前にずら りと並んだタクシーのうちの一台に乗り込み、初老の運転手に行き 先だけを告げると、流れる景色をただひたすら眺めていた。 「いい試合だったぞ、和樹」 人をどやす事と叫ぶ事しか能が無いと思っていた顧問の鈴木が、 畳の上から戻ってくる和樹を励ます。 二年前、最初の対決では開始直後にあっさりと畳に叩き付けられ た。 その敗戦の悔しさをばねに猛練習を積み重ねて挑んだ昨年も、ま るで前回のリプレイのような見事な負けっぷりだった。 そして今回、和樹は過去二回の敗戦がまるで嘘であったかのよう に、終始優勢に試合を運んだ。 観客席からは和樹に対する声援が沸き起こる。判官贔屓とはまさ にこの事なのだろう。 しかし、健闘むなしく和樹の体は終了間際に宙を舞った。 「なーに、結果が全てじゃない。試合内容ではお前の方が勝ってい たさ」 控え室へと戻ると、鈴木は汗でじめじめとした背中をぽんと叩い た。 「それに、ハンディキャップもあったしな」 「そうですよ、主将。その手さえ怪我してなかったら、最初の背負 いで間違いなく一本でしたよ」 頭からタオルを被り、微動だにしない和樹を試合に負けたにもか かわらず他の部員がその健闘を称え、次々と励ました。 右手の包帯さえなければ、と。 ―ハンディキャップ……か そう噛み締めるように呟くと、和樹は右手に巻かれた包帯を眺めた。 「お客さん、怪我かい?」 信号待ちの間、運転手がルームミラー越しに和樹を一瞥すると、 眉間の皺をより一層深めた。 「それじゃあ満足のいく結果が出なかったろうに」 満足のいく結果? 果たしてそんな物はあったのだろうか。包帯 などを巻いた時点で、きっと自分は負けていたのだ。 「まぁ、ハンディキャップを乗り越えてこそ、真の勝者といえるん だろねぇ」 信号が変わり、窓に映る景色が再び流れ出した。 和樹は窓から視線を落とし、右の拳を思い切り握り締める。 痛みなど全く感じないはずなのに、真の敗者の目からは涙がとめど なく流れてきた。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。