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第11回1000字小説バトル
Entry26

夢の記憶

作者 : 紅 樹
Website : http://www.lares.dti.ne.jp/~tathuki
文字数 : 797
 夢を見た。
 シダが生い茂り、松のような木がそそり立つ森。
 その間で、静かに草を食む巨体。
 背中に生える幾枚もの剣盤。
 それは、おそらく太古の記憶。
 いまはもう失われた世界の風景。
 草原を活歩する二本足の猛獣。
 その小さな目は油断なく獲物を探り、鋭い牙と爪はあわれな犠牲
者の息の根を止めんと待ち構えている。
 そして、空には三角の凧を思わせる影が舞い、足元では鼠のよう
な小さなけものが、辺りをうかがいつつ走り抜ける。
 周り中緑に覆われているのに、不思議と広さを感じる。
 何にも束縛されない自由な空間。
 足があればどこまででも走り、翼があればどこまででも飛んで行
ける。
 まるで、周りの空気までが自分の一部になったようだ。
 それは、身体全体で「観ている」風景。

 ふと目が覚めた。枕もとのスタンドがぼんやりと光を放っている。
 頭の脇がごろごろしている。何かが当たっているのだ。
 僕は、二、三度目を瞬かせると、それの正体を確かめようとスタ
ンドの光ににかざしてみた。
 それは、尖った岩そっくりの恐竜のかけらだった。
 今日、納戸の整理をしていたら見つかったもので、僕の小さい頃
の一番の宝物だった。 僕が自分で見つけてほりだしたもので、小
さい頃はテーブルにおいてはよく眺めていたものだ。
 思わず懐かしくなって、ベッドのサイドテーブルに置いておいた
のだが、なにかのはずみに落ちてきたのか。
 昔は、それを見ていると、なにか別のものが見えるような気がし
ていた。
 ふいに、隣で寝ている妻が寝返りをうった。
 起こしてしまったのかもしれない。
 僕は、牙をサイドテーブルに戻すと、スタンドのスイッチを切っ
た。
 一瞬であたりは闇に包まれる。だが、カーテンごしの月明かりと
規則正しい妻の寝息が心を落ち着かせてくれる。
 僕は、そっと目を閉じた。
 きっと、宝物はたくさんあるのだ。
 少なくとも歳の数ほどは。思い出すことさえできれば。






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