第11回1000字小説バトル
Entry28
もはや冬である。休日の午後、私はデパートの、屋上なかよし広 場のベンチに腰かけて、アイスキャンデーをなめていた。吹きすさ ぶ木枯らしのなかにあって、ひとなめするたびに、全身に寒気が走 った。 屋上なかよし広場は、ひどく閑散としていた。ヒト気といえば、 バイトとおぼしきアイス屋の青年と、この私のみ。ところどころペ ンキのはげた遊具が、風にうたれて小さな悲鳴をあげる。この風景 もまた、私を寒々とさせ、それに木枯らしとアイスの冷たさが加わ った三つ巴により、この身をふるわせるに至るのだ。これが私の趣 味である。 やがてその趣味も終わった。アイスが、棒だけになってしまった のだ。しかしその時、私は棒に奇妙な文字を見た。『ハザリ』の三 文字。 私は困惑した。ハザリ、これはいったいどういう意味なのだろう か。アイスの棒であることから、クジの結果のひとつだと推測され るのだが、ハズレなのかアタリなのか、よくわからない。私はベン チを立ってアイス屋に向かった。 「こんなものが出てきたんだが」 声をかけると、カウンターに頬づえをついていた青年は、雑誌か ら目をはなして、ちらと棒を見た。 「なんすか。あ、ハザリですね」 それっきり、目を雑誌に戻してしまった。私はいささかイラだっ た。 「ハザリとはなんだね」 雑誌に目を向けけたまま、応じた。 「ハザリはハザリですよ。それ、ハザってます」 よくわからない。私は多少の期待をこめてたずねた。 「もう一本もらえるのかね」 ふたたび青年は雑誌から目をはなし、困ったような顔をした。 「いえ、それはアタリの場合です。クジのルール、知ってますよね ?」 困るのは私の方である。 「ではこれは、ハズレと同じではないのかね」 青年はようやく雑誌をたたむと、おっくうげに頬づえをはなした。 「やだなあオジサン、ハザリはハザリ。アタリとハズレの中間、み たいなかんじっすね」 私は棒をにぎり、『ハザリ』の三文字を見つめながら、ベンチに 戻った。もう一本もらえるわけではない、が、ハズレというわけで もない。少なくともアタリではないのだから、残念がるべきなのか もしれないが、それにはハズレであってほしい。ハザリでは、よろ こぶことも残念がることもできないではないか。 しかし私はこのハザった棒を手ばなすことができなかった。寒々 とした木枯らしとベンチから見る風景、それにハザリが加わった三 つ巴に、この身をふるわせていたからである。
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