第11回1000字小説バトル
Entry3
中島は内装会社の営業マンとして勤務していた。その日は社屋の 改装を予定している食品会社に売り込みに来た。最近、成績が芳し くなく、ここで大きな仕事を取らないと彼自身の進退も考えなけれ ばならないところまできている。 「丸高内装の中島と申します」 と対応に出た男性に名刺を差し出すと、 「私、畑野と申します。只今、部長が参りますがそれまでの間、私 がお聞きします」と話し始めた。 部長と言う人物が現れるまでの間、中島は畑野とかなり打ち解け て話をした。好感触だった。見積さえあえば、全フロアの改装を任 せても言いという。30分ほどして部長がやってきた。 「いやあ、どうもどうも、お待たせしちゃって」 中島は立ち上がって、 「いえ、こちらこそお忙しい時にお伺いいたしまして。中島と申し ます」と名刺を差し出した。すると、部長は「あれっ」というよう な顔をしたかと思ったら、今度は怪訝そうな表情になり名刺と中島 の顔を見比べながら、 「つまらないことをお伺いしますが、中島さんひょっとして『西町 小学校』の卒業じゃありませんか?」 「えっ、はあ、そうですが」 「やはり、そうでしたか。私ですよ。坂口ですよ。憶えていらっし ゃらないかなあ」 しばらく考えてから「ああ、坂口さん」と、営業マンの調子良さで 言ったものの本当は覚えてなどいなかった。 「部長、お知り合いですか」 畑野が坂口部長にそう聞いたとたん、坂口部長の顔色が変わった。 「ああ、どうもそのようだ。畑野君、お帰り頂きなさい」 「はあ?」 「帰って貰えと言ってるんだ。時間の無駄だ」 坂口部長は「失礼するよ」と言って出て行ってしまった。 追い出された格好の中島は、一生懸命昔の記憶をたどってみたが、 坂口と言う人物がどうしても思い出せない。何が彼をあんなに怒ら せてしまったのか。 もやもやしたまま、一日の仕事を終えて自宅に帰った中島は押入 れの奥から卒業アルバムを引っ張り出して、名前から坂口を探した。 その人物はすぐに見つかった。写真を見て中島は全てを悟った。 一度も同じクラスになったことはなかったが、気の弱いやつで、 いつもおどおどしていた。皆で口々に囃し立てた。 「おい、あれやってみな」 いやがるあいつに無理やりやらせたものだ。やらないとみんなで苛 めた。当時、流行っていたテレビに出てくる怪獣の真似を。あいつ の名前なんか知らなかった。 皆、ピグモンと呼んでいたから。
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