第11回1000字小説バトル
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払い転がされた仏像を、五平はそっと抱き上げ黙ってもう一度小萩 の腕に預けた。 小萩は我知らずその小さな仏像を固く抱きしめた。 素朴な様子のそれは、五平が一心に彫ったものである。 五平は今から死にに行く。 たとえ当人が必ず功成り名遂げて戻るつもりだと言おうと、満足な 武具すら持たない雑兵が、万に一つの希もないように小萩には思え た。 肩を掴む五平の指の力の強さが、きっと帰ってくる証のようでもあ り、今生の別れのしるしのようでもあるのだった。 あばら屋の片隅を浄め、仏像を置いた。 穏やかなその姿と対峙していると自然に手を合わせていた。 五平の姿が脳裏に浮かんでくる。全身に刀傷を受け粗末な鎧を紅に 染めて倒れている姿である。 それならばまだいい。敵方につかまり拷問を受け、指を一本ずつ切 り落とされていく五平の姿。五平の悲痛な叫び声が聞こえる。 いったい人間というものはどこまでも残酷になれるものである。小 萩はそのことをよく知っていた。幼い頃に村が焼き討ちにされ狼藉 された記憶は、あの世の地獄絵図よりも余程地獄であった。怒号と 命乞いの声、飛び散る血や肉片、悲鳴、鳴咽、恐怖… 小萩は合わせた手に額を揉み込むように固く身を縮め、声を漏らす まいと耐えた。五平が受けているであろう肉体的苦痛に比べただ座 って祈るだけの自分は何という安穏さだろう。 こんなところでべんべんと祈りを捧げているよりは戦場の五平の元 へ走り五平が死ぬなら自分も一緒に死ぬべきではないのか。 けれど、小萩は怖かった。死ぬことにもまして、現実の地獄絵図が 恐ろしくてならなかった。五平や自分が、いやたとえ敵方でも人の 姿をしたものが、切り裂かれえぐられ嬲られるということが気が違 う程に恐ろしかった。 小萩はうずくまった姿勢のまま、いつまでも動かなかった。 小萩の懐かしい五平は死にかけていた。 小萩の心情を思うと筆者が書くのをためらう程、無残な仕打ちを受 けて地に倒れ伏している。 このまま死んでいくことの、なんと寒い位にさむしいことだろう。 五平は小萩を想った。 小萩は、−五平を想ってくれているだろうか。五平が死にゆくまさ にこの時に。 (祈っている。あの仏像に。儂のことを。) それは確信というより、五平にとっては単純に事実である気がした。 五平の口元から血泡が漏れた。「小萩」 朝の清潔な光りはこのあばら屋にも隔てなくその温もりを注ぎ込ん でいた。 小萩は一昼夜、身じろぎもしなかった体を起こした。
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