第11回1000字小説バトル
Entry31
「たまにはうまいコーヒーが飲みたいなあ」 朝のコーヒーを飲みながら健一は呟いた。 菜美はコーヒーなんて飲まないから、健一の気持ちがよくわから ない。確かにサイフォンなんかを使うと味が違うのかもしれない。 健一がかばんを手に取り、新聞を小脇に抱えて出勤してしまうと、 菜美は台所の片付けを始めたした。さっさと片付けて、パソコンの 前に座り、スイッチをいれる。 最近はインターネットに凝り始めた。コーヒーをキーワードにし てネット上を検索してみる。 「サルでもおいしいコーヒー講座」 「これがほんとのうまいコーヒーの飲み方」 「コーヒーの歴史」 いろいろなホームページがあるものだ。インチキまがいのものま である。 「このコーヒーを飲んでからというもの、仕事もしないのに出世街 道まっしぐら、いままでリストラにおびえていた自分が嘘のようで す(28才会社員)」 「コーヒー豆枕を愛用してます。この枕だとぐっすり眠れるんです。 不眠症だったのが嘘のようです。冷え性にも効くみたい(24才OL)」 「おいしいインスタントコーヒー1年分プレゼント」 そうそう、インターネット懸賞に応募してみよう。菜美は、検索 キーワードに「懸賞」を追加してみた。 「おいしいコーヒー豆1年分プレゼント」 「電動式ミルとネル布プレゼント」 「高級ティカップと銀食器プレゼント」 どうやらプレゼントだけでおいしいコーヒーが飲めそうだ。菜美 は片っ端から応募した。いままでもいろいろ当ててるだけに自信は ある。 ぽつりぽつりと景品が届き始めた。ネル布は手入れが面倒だけど、 菜美は手間を惜しまなかった。ミルは、手動式の方が良い味でそう だけど、電動式の方がおいしいコーヒーになるらしい。 健一がめずらしく早く帰ってきたから、夕食後にさっそくコーヒ ーを淹れてみた。きっとびっくりするに違いない、菜美はわくわく しながら、それでいて何食わぬ顔でコーヒーを差し出した。 健一は、夕刊を読みながらコーヒーをすすった。 朝飲んでるコーヒーとも違うし、会社で飲んでるだろうまずいコ ーヒーとも違う。サルでもおいしいコーヒー講座で勉強した成果が、 今まさに健一が飲んでるコーヒーだった。 健一は、菜美が飲んでいるレモンティに視線を落とすと、夕刊を たたみながら呟いた。 「たまにはうまいコーヒーが飲みたいなあ」
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