第11回1000字小説バトル
Entry33
いつものようにKの部屋を開けると、そこにいるはずのKはいな くて、Kのいるはずのベッドには、初めて見るポットがあった。 Kはついに念願叶い、ポットに変身したのだ、僕はそう思うこと にした。Kは近頃、自分は今まであまりにも人に迷惑をかけすぎた から、これからは少しでも人の役に立つ仕事をしたい、ボランチア 精神だよチミ、みたいなことを、昨夜言ってたのだ。 さすがは神様。ポットはまさにそんな仕事であると、僭越ながら、 僕もそう思います。 ベッド上のポット(旧姓K)は光を失っていた。一目瞭然、プラ グが刺さっていない。神の御心によって生まれしポットも、やはり 人工の火がなければイカンとは、なんとも不遜な事実である。 持った感じ、しっかりと水は貯蔵されているようで、プラグもす ぐそばにあるし、アア新たな生命の始まりよ、とプラグをカチリと 差し込んでやる。 プラグを差されたポットは、「沸騰中」というランプを灯し、し ばしの沈黙後、勢い良くシュゴオオオと音を立て始めた。 友人の夢が今叶っている、そういった感動に一人悦に入っている と、あろう事かポットであるKは不意に熱湯を吐き出し、ウワッチ ィ、僕の膝は一瞬にして熱湯地獄と化してしまった。さすがはK、 センチな感情などいらねえ、これからポットとして真摯に生きてや るんだ、そんな君の熱い決意を感じたよ。 人型であった頃のKがお気に入りであった「成り上がり」タオル で、びしょびしょになったジーンズを拭いてから、そこらへんにあ るコップを熱湯で洗って、そこらへんにあるショーチューをお湯割 りで頂くことにした。うまい。酒と相思相愛のKが暖めたお湯で割 ったものである。まずかろうワケがない。 ポットになったKには不要であろうと、適当に冷蔵庫を物色し、 どこから拝借したのか、身分不相応な生ハムとカニ缶を発見したの で、お湯割りのつまみにムシャムシャといただく。ポットのKはそ の様子を、全くの無表情で眺めていて、さすがにポット様となると、 卑しき人間の持つ嫉妬心なんてのは既に卓越し、精神はもはや沙羅 双樹の世界であることよ、と僕に思わせるものだ。 次第に夜も更けて、ではそろそろおいとましますか、Kにまた来 るよを告げて、それから寂しい思いをしないようにと、テレビは付 けたまま、電気も付けっぱなしにして部屋を出た。外は結構寒かっ たが、3杯のお湯割りで暖まった体が無敵であるのは言うまでも なし。
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