第11回1000字小説バトル
Entry34
「自動車いや、車両というものが、なぜここまで発達し利用される ようになったか、君たちは分かるか?」 広いが薄暗い部屋の中、長い机の一番上座に座った男が場の人々 を見渡す。 「内燃機関の発明、でしょう」 禿げた男が素気なく答える。 「違う!」 「石油の発見ですか?」 白髪混じりの女がおずおず尋ねた。 「そんなことではない! 全ての鍵は、ブレーキだ!」 「ブレーキ?」 人々は顔を見合わせる。 「車両は、ブレーキが存在するからこそ、走ることができる!」 上座の男は、資料の表示されているスクリーンを叩く。 「ブレーキの存在なくしては、自転車一つ満足に走らせることはで きない! ブレーキのない車両は、自殺装置そのもの。何の価値も ないのだ!」 「そ、そうですか?」 彼の剣幕に少々たじろぎつつ、禿げた男は額とも頭とも付かない 部分をハンカチで拭く。 「人類の歴史一つ取っても、疫病や飢饉、はたまた戦争などのブレ ーキがかかったからこそ文明の発達があったとも言えるのだ!」 「それは言い過ぎでは?」 「言い過ぎなものか、日本がいい例だ。大東亜戦争の敗戦、米軍に よる占領という大きなブレーキが働いたからこそ、事故も起こさず に急成長を行えたのだ! もしもあのまま帝国主義が突き進んでい たらどうなった? 植民地の維持能力があの政府に、軍部にあった と思うか?」 ばんっ、と上座の男は机を叩く。 「それだけではない! 学校には必ず落ちこぼれがおり、会社には ヘマをする社員がおり、一週間にも日曜日というものがある!」 彼は鋭い目で人々を見渡した。その視線を真っ直ぐ受け止められ る者は、一人としていなかった。 「我々の命運を握るのは、人類普遍の発展法則、ブレーキに他なら ないのだ!」 会議室はしん、と静まり返る。 上座の男は、カラフルなサンプルの中から、白い一つを取った。 「ドロップには引き続きハッカも入れる!」
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