第11回1000字小説バトル
Entry36
空が暗い。これが世界の終わりだといっても過言ではない。身を 屈めようか。誰かが見てるかもしれない。なにか恥ずかしい。恥ず かしさのあまり死ぬこともあるのだろうか。そこまで僕は恥ずかし くないのだが。 部屋から見える空のことだ。窓を開けると見える空のことだ。夜 のような空のことだ。僕は一日じゅう黙っていたわけじゃない。僕 に責められる理由はない。今日はたまたま部屋にいるだけの話だ。 仕事の後で、疲れて、テレビさえも僕を疲れさせる。静かな環境は 僕に何かを呼び覚ませてくれるような気がしていた。そして、僕は 何もすることがなくなって、窓を開けて、空を見たのだ。すると、 空が暗かったのだ。真昼だというのに。 僕はネガティブな気分になっていた。動けば動くほど深みにはま るような気がしていた。腕を少し上げるだけで、突然、部屋の壁を 突き破って飛び込んでくる自動車に跳ねられるんじゃないかと考え ていた。それはそれで面白くはあったが、良く考えるとつまらない ことだった。 僕は自分の気分にうんざりした。汚染されていた。肌の色が変わ っていくような気がした。肌がとても深い緑色に変色していき、観 葉植物かなんかになってしまうような気がした。そしたら、急に太 陽が恋しくなった。僕は窓に向かって首を伸ばした。酸素を吸うの が当たり前となったいまでは、自分にとって価値ある栄養を新しく 見つけなければならない必要を感じていた。 僕はメラメラと燃える太陽を想像した。火竜のようなコロナの竜 巻を想像した。黄色く輝く炎に焼けこげる自分の眼を想像した。イ カロスの墜落を想像した。マルスの荷車を引く哀れな人間を想像し た。神話の世界が現実に目の前で繰り広げられたら、それはなんと 滑稽な光景になることだろう。こいつはちょっとした皮肉だ。僕は あんなものにかかわりあいたくない。明るい世界、英雄たちのはば たいていた世界、それを肯定的な意味でとらえることは、もはやで きない。皮肉は現代の産物だとどこかで聞いた。皮肉には誰もが負 ける。「くだらない」 それにしても、なぜこんなに空は暗いのだろう。雨は降らず、雲 ひとつない、晴天の空。なのに暗い。僕にだけそう見えているのか もしれない。まあそれもいいだろう。僕は部屋で座っているだけな のだ。空が暗かろうと、世界が終わりに近づいていようと、僕は僕 自身がその気にならなければ、ここを一歩も動くつもりはないのだ から。
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