インディーズバトルマガジン QBOOKS

第11回1000字小説バトル
Entry41

赤の陰謀

作者 : akoh
Website : http://www.geocities.co.jp/Milkyway-Orion/8896/
文字数 : 1000
「逃げましょう! ここは危険よ」
 彼女が言った。恐れおののいて。
「どうして危険なんだ」
「今説明したでしょう。さっきの会話を傍受した秘密組織が私たち
を殺しにくるの!」
 彼女は一種異様な興奮状態に陥り、自分を見失い混乱していたの
である。俺はそれをなだめようと必死だった。
「だから、それは大げさなんじゃないか」
「なにが大げさなもんですか。あいつらは私たちの国をのっとろう
と密かに画策しているに違いないんだから」
「どうしてそうなるんだよ」
「あなたも理解力のない人ね。いいわ。私一人で逃げるから、あな
たは一人で死んで」
 状況が状況であるから、ひどい言葉だがこの際見逃そう。
「ちょっと待ってくれ。もう一回だけ、説明してくれないか」
 なりふり構わず彼女にすがりつき、懇願する。憐憫の情を表すこ
とを期待したのである。果たして。
「いいわ。ただし一回だけよ。一回説明したら、私はここから逃げ
るからね」
「ああ、ありがとう」
 冷静なフリをして、すっかり彼女のペースにはまっているような
気もするが……いや、俺は自分のペースで、彼女をしっかりと制御
しているはずである。
「じゃあどこから説明すればいいの?」
「それじゃあどうして国がのっとられると考えるのか、から」
「だからそれは、農薬シャワーを浴びせた食物を私たちに食べさせ
て死を誘発させているから……」
「確かそれが密かな陰謀だと」
 心の内のみで嘲笑する。彼女は、日本の農業の現状を俺以上に知
らないらしい。
「ええ、陰謀よ」
 彼女は小さく言う。警戒を怠ってはいない証拠である。
「だけど最初の話題を思い出せよ。一体どうしてこんな展開になっ
たんだ?」
「それはあなたが原因でしょ。オレンジのポストハーベスト問題な
んか持ち出してきて」
 おっしゃる通り。俺はすっかり忘れていた。彼女、憤慨しつつも
案外冷静でもある。これはうかうかしていたら言いくるめられかね
ない。気をつけよう。
「いや、確かに言ったよ。でもその話自体脇道にそれてたんじゃな
いか。本道は別だよ」
「だからそれも全部あなたがずらしたんじゃないの。私の質問にち
っともまともに答えようとしないでさあ」
 ごもっとも……ん? 危うい。術中にはまるところであった。
「いいや。ミカンとOrangeが違うってところはちゃんと答え
た」
「それと最初の質問は違うでしょ。私が知りたかったのは、リンゴ
とAppleは同じなのかどうかってことよ!」
「知るかよっ」






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