第11回1000字小説バトル
Entry44
斎藤芳江、魔女名ステュアート・ファーラーの語るところによれば 「違うのよ。そこらの団地妻なんかとは価値観が」 手掴みでステーキを貪る魔女はファミレス中の注目の的だ。彼女は 視線に気づくとやおら立ち上がり、狩れるもんなら狩ってみろよグギ ギと怒鳴りだし、首をグリングリン回しながら手元のサラダを投げ散 らかして周囲を威嚇した。 私はどうにか彼女をなだめて用件を切り出す。 「それであのう、私も魔女のお仲間に入れて欲しいんです」 魔女は血走った眼を細め、それは素晴らしいわグゲゲと笑った。 「あんたはただの団地妻で終わる人じゃないと思ってた。連中ときた らまるでくだらなくって、ワタシいつか連中にリガチュアの呪いをか けてやろうと思ってんの。あ、ここはワタシが」 彼女はレジにタロットカードを一枚置き、「カードで」と言い放っ た。 「とにかく価値観が違うの」 ステュアートの計らいで、私の入会式と仲間内の新年会を兼ねた夜 会(サバト)が催されることになった。場所は団地のはす向かいの公民 館。 魔女のお歴々に挨拶をしてまわった後、入会の儀式として黒山羊の 剥製の尻に口づけをした。古ぼけた剥製の臀部は禿げていて、変色し た口紅がこびり付いていた。 儀式の後、ステュアートが一人の老魔女を紹介した。 「こちら、夜会長の中西すゑさん。魔女名イザベル」 「初めまして、すゑさん」 「ギッ」 本名で呼んだのが気に障ったらしく老魔女は邪眼で私を睨みすえた が、新入りだからどうか大目に、とステュアートがとりなしてくれた。 彼女は先輩魔女の前では決してグゲゲと笑ったりしない。サラダも撒 き散らさない。 「とりあえず、当分イザベルさんの使い魔として励んでもらいます」 イザベルは口から黄色い泡を吹き出しながら怒鳴った。 「アタシはまじないの材料が御入用なんだよ。血石、琥珀にヒキガエ ル、それと処女の経血、今すぐ持ってきなっ」 逃げるように外へ出た。他の魔女たちが私を笑う。 宝石なんか持っていないし、ヒキガエルがそこらにいたとしても気 持ち悪くてつかめない。団地妻には蛙なんてつかめない。 こんな筈じゃあなかったのに。こんなことなら団地も公民館も崩れ てしまえばと呪詛をこめてはみたけれど、使い魔ふぜいに魔術が使え るはずもなく、犬の遠吠えが止んだ以外周りはなんら変わりがない。 せめて自分が処女だったらよかったのにと思ったが、それこそ魔術で どうなるものでもなかった。
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