第11回1000字小説バトル
Entry45
日曜日の朝、目を覚ますと妻がベランダで洗濯をしていた。珍し く、タライと洗濯板を用いて、極彩色の物体をザブザブと洗ってい た。 「何を洗ってるんだい」 「あら、起きたの。これ、あなたの脳味噌よ。昨夜ずいぶん落ち込 んで、『死んでやるー』とか騒いでたでしょう。布団に入ってから もうなされてたから、変なシミにならないうちに洗っておこうと思 って。」 「そうか」そんな事が出来るのか。初耳だ。世の中便利に成ったも のだ。納得し、居間の卓袱台の定位置に坐る。そう言えば何だか頭 が軽いような気がする。ちょっと振ってみる。 朝食をすませて、湯飲みに茶を注ぐ。ふぅーふぅーずー。という 事は、私は今、脳味噌無しで動いているのか。日常の簡単な動作や 会話は、いちいち脳味噌にお伺いをたてなくても、筋肉の辺の神経 か何かが適当に制御するんだな、きっと。ずずー。新聞を取る。ん、 何だか文字が怪しいぞ。見出しの文字を読んでみる。「首…、…… 自……を21世…に実…」そうか。難しい漢字を読むには脳味噌が 必要なんだなあ。ひとしきり感慨にふける。感心してたら、眠くな ってきた。 「あなた、起きて下さいな」肩を揺すられ、うたた寝から覚めた。 「急いで乾かしたから、少し湿っぽいところがあったけど、とりあ えず戻しておきましたからね、脳味噌。私、ちょっと買い物に行っ てきますから。あなた午後から出掛けるって言ってなかった?」そ う言うと妻は出て行った。 私は卓袱台の定位置で、洗いたての脳味噌の感触を楽しんでいた。 ぬるくなった茶を啜る。ずー。そうだ、さっきの新聞の見出しが読 めるようになったか試してみよう。「首…、…発自…化を21世… に実施」まだ所々判らない漢字がある。きっとまだ少し湿っぽいか らに違いない。こめかみの辺りを叩いてみる。経過時間と乾燥具合 と漢字判読能力の相関関係を調べてみると面白そうだな。その時、 電話がなった。 「はい、もしもし」 「あああ。課長、まだうちに居たのお。アタシもう30分も待って るんだからあ。早く来てよお」聞き覚えのある声だ。同じ課の女性 に違いないが、なんだか妙になれなれしいなあ。と考えているうち に電話は切れた。私は受話器を置いて、相手の女性の名前を思い出 そうとした。ずずー。 駅前の喫茶店で、相原 由紀は携帯電話をテーブルに置くと、ま たファッション雑誌を眺め始めた。隣の客は朝刊を読んでいた。 「首相、原発自由化を21世紀に実施」
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