インディーズバトルマガジン QBOOKS

第11回1000字小説バトル
Entry49

恋愛事始め

作者 : アベタツヤ
Website :
文字数 : 992
 そこらかしこでセックスする光景はもちろん見慣れてるけど、そ
れを見ると僕もしたくなるから少しイヤだ。
 父が大学生の兄に電話で話している内容を傍受してやった。僕の
モニターには父と兄の顔が映っていた。
「21世紀、人間は本能に回帰しセックスを素直に受け入れること
に成功した。昔は『恋愛』っていってセックスをみだらなことと考
えていた時代があったらしいが、それが20世紀後半。21世紀前
半から『性の解放』が始まって、60年代に完全に解放された。こ
れが大筋だ。ここは大事なとこだぞ。絶対試験にも出るから。きち
んと言えるようにしておくこと」
 父は有名な歴史のマスター、兄は今年インターカレッジのマスタ
ー取得試験らしい。父とも兄とも仲良くないが、いたずらしてるう
ちに珍しい言葉を聞いた。
「恋愛」っていう言葉を初めて聞いた。もちろんミドルスクールの
教科書なんかには載ってない。
 
 今日もトモコと一緒に帰ることにした。一緒に帰りたかったから。
 友達は「お前、変な奴」っていうけど、気持ちの問題だからどう
しようもないじゃん。
校門の横で先生たちが「アフターファイブ」のセックスしてて「さ
よなら」って言ってきた。僕もしたくなったけど、トモコにいうの
はやめておいた。どうせ昨日もしたんだし。トモコもそんな感じだ
った。

 3日前に「恋愛」についてとうとう読んだんだ、若者向け流行R
OMで。父はこんなROM僕が読んでると知ったら、すごい剣幕で
怒るだろうな。「兄を見習って勉強しろ」って。

「『恋愛』っていうんだって。昔20世紀の終わり頃、そんな感情
を『恋愛』って言ってすごく流行った時代があったらしいんだ。胸
がドキドキするらしいよ、これから流行るかもって」
そう言うとトモコは
「恋愛?っていうの。20世紀の人の言葉?」
「うん」
 こんな感情だれにもわかんないだろうな、と思いつつ僕の右手が
自然にトモコの左手に触れたとき、嬉しいやら恥ずかしいやら。こ
れから流行るんだったら、東のニューヨーク辺りではもう流行って
るのかな?
 「恋愛」って詳しくはわからないけど、もしこういうのが「恋愛」
っていうなら全然悪くはないと思う。うん、悪くない。
 ポケットの中にトモコの手をさそって握ると、トモコも強く握り
返してきた。恥ずかしそうな顔をしてた気がした。セックスの時も
見せない顔をした。それが嬉しかった。

明日もこうして一緒に帰ろう。






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