第11回1000字小説バトル
Entry9
2000年1月1日、午前0時15分、地元の駅に僕たちはいた。 駅の構内に向かって降りる階段の上で自転車にまたがった僕、その 後ろの小さなバス停のベンチに隆史と加奈子。 「ねえ、なんで年越し早々こんなところに呼び出されなきゃなんな い訳?あたし圭ちゃんと初詣に行く約束してるんだけど」 「洋介はさあ、今、ここで何かを表現したい訳さ。付き合ってやろ うぜ」 僕は自転車のタイヤ越しに階下を覗き込む。24段、こうやって みると相当高く見える。 「なにするつもりなのよ、ねえ、洋介!」 僕は寒さに震えながら膨れている加奈子に振り返って叫ぶ。 「ここを自転車で駆け下りるんだよ」 しばらくしてから加奈子があきれ顔で問い返す。 「そんな事して何になる訳?」 僕はそれには答えなかった。無言で自転車をベンチの横まで押し ていく。 「第一危ないじゃない、頭でも打ったら死ぬわよ」 「心配すんな、死ぬときは俺が看取ってやるから」 大きなあくびをしながら隆史が続けた。僕はスタート地点に着く。 「何だってミレニアムにこんな事に付き合わなきゃなんないのよ。 ミレニアムよ、ミレニアム!」 「おまえさあ、その言葉の意味解ってるのか?」 「圭ちゃんに教えてもらったもん、ドイツ語で2000って意味で しょ」 「…そのアホな彼とはもういい加減別れたら?」 「なんでよー」 僕は呼吸を整えてペダルに足をかけた。 「行くぞ!」 一気にこぎ出す。自転車はすぐにトップスピードに到達する。風 が刺すようだ。頬と手が痛い。階段が迫る。僕はわくわくしていた。 自転車は少し空を切って一瞬浮き上がり、そのまま3段目まで飛ん だ。前輪が階段に落ちたときに衝撃が手と足からはい上がって肩か ら上空に突き抜けていく。がたがたた、と階段を滑り落ちる。しば らくはそのまま降りれたが前輪が変な角度で段を蹴った時、後輪が 浮き上がり、視界が普通なら見えないような連続した断面となり、 背中と肘に激痛が走ったとき僕は自分が転がり落ちた事に気づいた。 頭も打ったようだ 加奈子が階段を駆け下りてきた。 「ねえ、大丈夫?」 「死んだか?」 隆史が階段の上から覗き込んでいる。 僕は寝転がったまま乾いた冬の夜空に大きく叫んだ。 「ア、ハッピーニューイヤー!」 加奈子が隆史を振り返ってあきれ顔で言う。 「洋介ってつくづく自己完結型人間よね」 「おまえ、その言葉の意味解ってるのか?」 頭の悪い僕たちの2000年はこうして幕を開けた。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。