第12回1000字小説バトル
Entry1
じっと見つめている。蛍光燈の灯りにてらてらと妖しく輝く体には まるで無数の目玉が埋まっているみたいだ。この世の果ての秘境か ら来たというこの客が部屋に居着いてからもう三ヶ月になる。最初、 僕はその貪欲さと完璧なまでに狂暴なその顔に興味を感じた。いや 力を感じたのだ。 暫くすると客はその図々しい本性を発揮し出した。それは特に旺盛 な食欲に現れた。僕はその力に狂喜した。いつしか客はこの部屋の 新しい主人となり、僕は主人の飽くことのない食欲を満たす為に少 しずつ自分の時間が減っていくのを感じた。付き合いが減るにした がってまず友達が消えていった。そして遂に彼女も僕が変わったと 言い残して去った。 勝利を確信した主人はもう屍肉を食べなくなっていた。生きた肉の 生け贄を僕に要求し、さらにその生け贄達を最高の状態に保つよう 僕に戒律を課した。彼は僕の行動を二十四時間監視することによっ て、他にもいろいろな戒律を設けた。僕は彼と同じ食べ物肉を口に 入れることを止めた。彼の目の前で一人快楽に耽ることもできなく なった。いまでは誰も訪ねてくることのないこの部屋で、ただ彼の 為に鼠を飼育するのが僕の生活となっていた。そして今日会社から 免職の通知が届いた。 殉教者は水槽の中へその右手を入れた。次第に薄れ行く意識の中で、 血で赤く染まった水の中にただの人食い魚を見た。
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