インディーズバトルマガジン QBOOKS

第12回1000字小説バトル
Entry1

救世主

作者 : 杉原久郎
Website :
文字数 : 1000
じっと見つめている。蛍光燈の灯りにてらてらと妖しく輝く体には
まるで無数の目玉が埋まっているみたいだ。この世の果ての秘境か
ら来たというこの客が部屋に居着いてからもう三ヶ月になる。最初、
僕はその貪欲さと完璧なまでに狂暴なその顔に興味を感じた。いや
力を感じたのだ。
暫くすると客はその図々しい本性を発揮し出した。それは特に旺盛
な食欲に現れた。僕はその力に狂喜した。いつしか客はこの部屋の
新しい主人となり、僕は主人の飽くことのない食欲を満たす為に少
しずつ自分の時間が減っていくのを感じた。付き合いが減るにした
がってまず友達が消えていった。そして遂に彼女も僕が変わったと
言い残して去った。
勝利を確信した主人はもう屍肉を食べなくなっていた。生きた肉の
生け贄を僕に要求し、さらにその生け贄達を最高の状態に保つよう
僕に戒律を課した。彼は僕の行動を二十四時間監視することによっ
て、他にもいろいろな戒律を設けた。僕は彼と同じ食べ物肉を口に
入れることを止めた。彼の目の前で一人快楽に耽ることもできなく
なった。いまでは誰も訪ねてくることのないこの部屋で、ただ彼の
為に鼠を飼育するのが僕の生活となっていた。そして今日会社から
免職の通知が届いた。

殉教者は水槽の中へその右手を入れた。次第に薄れ行く意識の中で、
血で赤く染まった水の中にただの人食い魚を見た。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。