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第12回1000字小説バトル
Entry10

君に伝えたいこと

作者 : 百内亜津治
Website :
文字数 : 998
 どうしてかって訊かれたって、そんなことを答えられるくらいな
らこんなにぼくは悩んだりしないはずだ。それというのも君のこと
をちょっとしたはずみで思い出してしまうと、胸が張り裂けそうと
いうよりか、とにかくせつなくて何だか全身に弱い電気がビリビリ
と通って動きが一時停止してしまうみたいだからだ。とたんにぼく
の思考もやろうとしていたこともみんなことごとく吹き飛んでしま
って、後に残ったのは夢の中を漂う君の笑顔だけで本当にどうにも
できなくて苦しくなってしまう。

 そんなぼくの気持ちを知ったときから、いつも君は淡いやさしさ
を持って答えてきてくれたと思う。まるでやわらかな陽光がこの地
に生きるすべての動植物にむけるまなざしのように。それらの陽光
は長い冬で凍りついたぼくの心を解かし、生気をみなぎらせ、張り
裂けた胸やしびれた全身を修復し、さらに生きる楽しさや美しさや
崇高さなんかを鮮明に照らし出してきたのだ。そしてそれらの喜び
のイメージをぼくははっきりと意識することができるようになった
ほどだ。同時にぼくと君の心がとても堅く結ばれているということ
も、ずっとそうあって

 それから、ぼくは静かにそしてゆっくりと君の中へ入っていった。
ぼくの胸にあふれてこぼれそうなほど多くのこの思いを、しっかり
としっかりと君の奥へ伝えていったのだ。ぼくは必死になって君と
初めて会った時のことを考えていた。思い出すだけで全身からやさ
しさのほとばしるあの日の面影や残像やイメージのことを。そして
それはぼくの胸の中にいっぱいにあふれるほどになったために、こ
うやって君の中にまた還元されるのだ、ということも。
 そう、ぼくは決めたんだ。君に襲いかかろうとするどんな外敵か
らも、君のやさしさを守り抜くことを。この荒れ狂う外気の中にあ
って、ぼくはいつまでもいつまでもあたたかく君を包み込む、大き
くて丈夫な家のようでありたい。その中できっと君は安心していつ
も笑って楽しそうに暮らしていけるだろう。こうして君を守りつづ
けられたら……。
 ぼくはぼんやりとそんなことを考えながら、この君や君に属する
あらゆるものを絶対失ってなるものか、とこっそりつぶやいた。そ
してこの決意が、ぼくの心にじっくりとしみわたるのを感じながら、
しだいに夢の中に引きこまれるような不思議な感覚がぼくを満たし
始めていた。






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