第12回1000字小説バトル
Entry12
ふわふわと風に揺れるモギ畑を背に、だんごっ鼻のゴロジが座っ ていた。目の前では、赤ら顔のサンスケが頬を膨らませている。 「20は少なすぎんかなあ」 「んなもんっさ」 ゴロジは譲らなかった。右腕のもげたマニャマン人形なんて20 でも高すぎるぐらいだ。モギ無しのサンスケのために欲しくもない 人形を買ってあげている。文句を言われる筋合はない。ゴロジはモ ギ畑から20本のモギを引き抜いた。 しょっぽりと肩をすくめて帰っていくサンスケには目もくれず、 ゴロジはモギ畑に寝転んだ。モギのぽよぽよとした弾力が、ゴロジ は大好きだった。 「ゴーロジくん」 声のする方に目をやると、長い髪のカノコが立っていた。 「あい、ちょっと待ってんさい」 ゴロジはモギをたくさん引き抜いて、袋に詰め込んだ。初めての デートだからモギに糸目はつけない。モギがあれば何だって買える し、何だってできるのだ。 「私ねえ、他の町な行ってみたあんだあ」 ハタオの店で、1杯70のハルジルを飲みながらカノコが言った。 「オトチャンもオカチャンも行っちゃダメなあて言うけど、ゴロジ くんと一緒なら大丈夫だやねえ」 ゴロジは他の町になんて行ったことがなかったし怖い噂も聞いて いたけど、さらさらの髪のカノコの前で、かっこ悪いところは見せ られない。 「ええよ。一緒に行かんさい」 愛はモギじゃあ買えん。オトサンに何度も聞かされた。 ゴロジはドキドキしてたけど、隣町に行ってみて拍子抜けした。 歩いてる人だって走ってる車だって、いつもゴロジが目にしている ものとそんなに変わらないのだ。ちょっとスピードが速いだけだ。 喫茶店に入り、コウヒーというやつを飲んでみた。苦かった。 コウヒーは2杯で700もした。隣町の物価の高さにびっくりし たけど、ゴロジは慌てず落ち着いて、モギを一本ずつ袋から取り出 してレジに並べていった。 「700円です」 「ええ、分かってんさよう。だかあ700本モギを」 ゴロジをにらみつける店員の目はコリキの刃のように冷たくて鋭 くて、勇気を振り絞ってにらみ返してみてもはね返されるだけだっ た。 ゴロジはカノコを抱え上げ、ドアを押し開け外に出た。そして後 ろも振り返らずに、息せき切ってひた走る。愛はモギじゃあ買えん けど、コウヒーもモギじゃあ買えんのだ。帰ったらオトサンに教え てあげよう。オトサンの反応を思い浮かべると楽しみで、ひた走る ゴロジのだんごっ鼻がヒクヒクなった。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。