第12回1000字小説バトル
Entry15
私たちは三番線のホームで最終電車を待っていた。正確に言えば、 待っているのは私だけで、ぐでんぐでんに酔っ払った彼女には、電 車を待っているという自覚はなさそうだ。 「ほら、しっかりなよぉ。寝ちゃだめよぉ」 ベンチに寝そべってしまった彼女の頬をぺしぺしと叩きながら、 もし彼女が本当に寝てしまったらどうしようと思った。彼女は彼女 で 「あれぇ、いま何時ぃ?」 とか言いながら、腕時計をしているほうとは反対の腕を見ている。 私が彼女を眠らせまいと四苦八苦していると、アナウンスが鳴り、 電車が来るのかと思えば、濃霧のため最終電車はしばらく遅れると のこと。電車に乗せてしまえば、後は終点まで放っておけばいいだ けなのに。私は膝の上に乗っかった彼女の頭をゆらゆらと揺らしな がら、大きなため息を吐いた。 「ごめんねぇ…。ごめんねぇ…」 「ホントに寝ちゃだめだからね。寝たら置いてくからね」 「だ、だいじょうぶぅ…」 彼女が薄目を開けてニタリと笑った。酔っ払いの微笑み以外の何 でもなかった。 絶えず話し掛けていたのにも関わらず、彼女からの返事はなくな ってしまった。代わりに大きな寝息だけをホームに響かせる。 私は途方に暮れて、ホームを見回した。いつのまにか周囲には濃 い霧が漂っていた。私たちと同じく電車を待っている人影が、まば らだが確認できた。田舎の駅ではなく、仮にも街の繁華街にある駅 だし、最終電車に乗る乗客が私たちだけのはずがない。電車が来て も彼女が目覚めなかったら、いや、目覚めても歩けそうにないし、 誰かに声を掛けて手伝ってもらうしかないだろう。 再びアナウンスが鳴って電車の通過を報せ、しばらくすると回送 電車が通過していった。続けて、もう一本電車がやって来た。その 電車は私たちの目の前に停まり、プシューと扉を開けた。すると、 霧の中で電車を待っていた人影がぞろぞろと動いて、電車に吸い込 まれていく。 「ほら起きて。電車来ちゃったよ」 私は彼女を叩き起こして、意識のはっきりしない彼女を半ば引き ずるようにして電車に乗り込んだ。 「ああ、私のバックぅ…」 彼女が呟く。ベンチに置き忘れたバックを取りに行こうとした私 の背後で、最終電車のドアが無情に閉まった。 「えっ、ちょっと待ってよ」 私の声は霧に虚しく吸い込まれいく。そしてそのまま、私を残し たまま最終電車は走り去っていった。 呆然とする私の頭上で、最終電車到着のアナウンスが鳴った。
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