第12回1000字小説バトル
Entry16
嵐の翌日だった。 彼は独りでそこにいた。 そして私も独りだった。 彼は「テト」と言う名前であるらしい。 どうやら翼を痛めているであろう彼は私に、そのおぼつかない飛 び方で、やっとの思いで、こう尋ねてきた。 「何処か休む場所は、在りませんか」と。そして「もう、だめなん で…」と続けた。 私は生物が嫌いだった。 もう何年も言葉を誰かに伝えたことはない。にもかかわらず、何 故そこで私は彼の問に言葉を返したのかわからない。単なる同情心 かもしれないし、私自身、どこかであきらめたところがあったから かもしれない。嬉しかったのかもしれない。 「ここから1日ぐらい飛んだところに、誰も住んでいない島がある よ。そこで羽を休めるがいい」 今にも力尽きてしまいそうな彼に、私は何をしてやることもでき ない。唯、言葉をかけ、道を示してやることぐらいしか、できない。 翌日、彼はその島にかろうじてたどり着いていた。 「アール」と呼ばれているそのちっぽけな島はのそりと動き、彼 に声をかける。 「これからどうするんだい」 その会話に私は、そっと耳を傾ける。私には、その彼らの声がはっ きりと聞こえる。 「もう…飛べないんだ…それにたった独りだし」 「そうか…なら僕と一緒に旅をしないか。僕も…僕も独りなんだ」 彼らは私にも声をかけてきた。あなたも一緒に旅をしませんか? と。 私は彼らがうらやましかった。そしてその申し出はとても嬉しか った。だが、私の心は晴れない。彼らはそれの意味するところを、 果たして理解しているのだろうか。 「でも…いいのかい?私と旅をする、ということは…」 私が口を開くとアールはまたのそり、と動いた。笑みを浮かべ、 少しはにかんで 「いいんです…」と。テトも、 「僕も彼も独りなんです。どうせなら、誰かと一緒のほうがいい…」 そして彼らは何も言わず、何を迷う事も無く、唯、私にその傷つ いた体を重ねた。 今、私は独りで無くなった。 私は彼らを自らの一部分で暖かく包み込み、彼らをそっと飲み込 んだ。それはゆっくりと、優しく、生まれた手の赤ん坊をあやすか のように、けれど冷たい、深い、真っ暗な私の中へ。 そして彼らは流れて行く。私の存在するところは、何処にでも行 くことができる。ずっとみんなで。遥か彼方まで、ゆっくりと、流 れて行く。 以前、独りの人間が私をみながらこうつぶやいた。 「海で死ぬことができたら、ズ−っと海と一緒に旅ができるね」と。
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