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第12回1000字小説バトル
Entry22

洗剤

作者 : 羽那沖権八
Website :
文字数 : 999
 高校帰りの千世さんは、スーパーの洗剤の棚の前で足を止めた。
「?」
 色とりどりの洗濯用洗剤の箱が並ぶ中に、洗剤名も、メーカー名
もない白無地の箱があった。
「ミスプリ、かしらねぇ」
 千世さんは、つ、と近寄ってその箱をよく見る。
 明らかに洗濯用洗剤のものと分かる直方体の箱。材質はボール紙
で、表面は白くつるつるしていた。
 手に取ってみたが、重さも普通の洗剤と変わらない。振ってみる
と、中でサラサラ音がした。
「洗剤、よねぇ? 品名くらいあるはずだけど?」
 だが、千世さんがどれだけ確認しても箱は白一色で、文字はおろ
か数字一つ書かれていない。
「バーコードもなし、か」
 文字らしいものといえば、スーパーで貼り付けた小さな値段のシ
ールだけだった。
「百四十三円かぁ。税込み百五十円ねぇ」
 いつも買っている洗剤と、その白無地の箱の洗剤とを見比べる。
「……ま、安いし試してみよっか」
 千世さんは白無地の箱をかごに入れた。

 数日後。
「ねえ、おねーちゃん!」
 居間でテレビを見ていた千世さんのところに妹がやってきた。乾
いた洗濯物が入ったかごを持っている。
「どーしたの、ももちゃん?」
「どーしたもこーしたも、ひどい仕上がりだよ?」
「あら、そう?」
「ほらぁ」
 妹は白い靴下を一枚差し出す。
 確かに、泥汚れも脂汚れも何となく落ちておらず、すっきり白く
なっていない。それどころか別の服から色移りしたらしく、ほんの
り青い。加えて、繊維が縮んで固くなっている。
「本当ねぇ。でももう一度洗うなんて真っ平ごめんだし……」
 千世さんは靴下をかごに戻す。
「ま、お父さんとお母さんは洗濯機もない場所にいるんだから、気
にしないことねぇ」
「目下パオ暮らし中の人類学者と一緒にされても困るんだけどなぁ」
「あら、職業に貴賎はないわよぉ」
「いや、そーゆー話じゃないんだけど。それに貴賎があるとしたら
学者って割と上の方な気も……」
「ふふ。ごめんね、次は気をつけて洗うから」
 千世さんは、にっこり微笑んで座椅子から立ち上がった。
「しまうの手伝うわよ、ももちゃん」
「うん、お願い。でもなにが悪かったのかなぁ。洗わない方がよか
ったくらいだよね」
「そうねぇ、なにが悪かったのかしらねぇ」

『――は、新酵素の働きで汚れを分解、従来の洗剤よりも、ぐーん
と洗浄力がアップしています……』
 消し忘れたテレビに、新製品の洗剤のカラフルな箱と、従来の洗
剤の白無地の箱が映っていた。






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