第12回1000字小説バトル
Entry24
いつの間にか眠っていたらしい。丸くなっていたソファの前にあ るテレビが、深夜の通販番組を映している。 主人はどこに行ったのだろう。彼はさっきまで、夢中でくだらな いテレビ番組を見ていたのに、その姿が見えない。時計の針は二時 過ぎを回っている。明日も仕事があるからと、私を残して寝室に向 かったのかもしれない。 足を伸ばす。背伸びをする。部屋には壁際に立ててある電球燈だ けが点いている。又消し忘れだろうか。それとも私がいることを気 遣ってわざと点けていったのだろうか。 廊下に出、奥の寝室に向かう。部屋の扉はわずかに開いていた。 足で隙間を広げ、入りこむ。 生臭いにおいが鼻を突いた。主人を呼んでみる。返事がない。ナ イトテーブルに手を掛け、ベッドの上を覗く。 血まみれの手が見えた。思わず私は目を見開いた。再び主人を呼 んでみる。反応はない。主人に近付く。青ざめ、凍り付いた顔。そ れとは正反対に新鮮な血が、ベッドと絨毯に流れ落ちている。 さっき部屋に入った時気付かなかったのは、この部屋が暗かった からだ。ようやく眼が慣れてきて、そうした惨状が分かった。何が あったのだろう。私は部屋を出、明るい廊下で息をついた。玄関の 扉が開いている。強盗だろうか。それとも主人に恨みのある何者か が復讐を果たしたのだろうか。冷静にそんなことを考えている自分 が恐ろしくなった。 足元を見ると、血で濡れている。さっき主人の部屋に入った時付 いたのだろう。手も同じだった。 思わず、私はそれを舐めた。予想外に、それは、甘かった。両手 を吸うように、私はその血を味わった。 ふらふらと、再び寝室に戻った。ベッドに乗っているのは、いつ も私を可愛がってくれ、愛してくれた主人ではなく、食欲の対象の ように、私には思えた。地面の血だまりに顔をつけ、舌でそれを飲 み尽くした。シーツを伝ってベッドに乗りあがり、傷跡も新しく、 まだ暖かい主人の腹からはみ出た内臓に、顔を埋めた。マンション の下にサイレンが近付き、止まった。 「うわあっ! な、な、なんなんだ?!こいつ……」 「こいつの主人じゃねえのか、ガイ者は……。恐ろしいやつだな。 早く追っ払えよ」 警察に保護された、血まみれのナイフを手にした錯乱者の証言と、 玄関から点々と続く血の跡を不審に思った近所住民の通報により、 駈けつけた二人の警官は、被害者の内臓を貪る、朱に染まった白猫 の姿を目にした。
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