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第12回1000字小説バトル
Entry29

恋愛

作者 : akoh
Website : http://www.geocities.co.jp/Milkyway-Orion/8896
文字数 : 985
 その日は、圭吾と弥生、二人の同棲一周年の記念日であった。豪
華な食卓、幻想的なキャンドルライト、赤くきらめくワイングラス
に、弥生はそっと口付けする。
「実はね、私、圭吾に隠してたことがあるの。今日は、それを打ち
明けるわ」
「知ってるさ」
 弥生は少しむっとする。
「なによ。それはまあ、こんな豪華な食事、今まで作ったりしなか
ったから、一目見て怪しいとは思うかもしれないけど、もうちょっ
と雰囲気に合わせてくれたっていいじゃない」
「ごめん。だけど安心していいよ。どんなことを聞いたって、僕の
気持ちは変わらないから。『あなたの幸せが、私の幸せ』さ」
「何それ。誰かの引用?」
「まあね」
「またそんな返事する」弥生は再びワインで唇を妖艶に潤し「それ
とも、私の隠し事がそんなに気になるの?」
 圭吾はニッと笑って、小さくうなずいた。弥生もつられて、少し
笑った。そして、いつも通りの落ちついた口調で打ち明けた。
「私ね、人を殺したの。圭吾と付き合う前の恋人。別れ話が喧嘩に
なって、気がついたら、テーブルの角に頭をぶつけてそれきっり。
分かってくれるでしょう、私、ただ必死だったの。殺す気なんてな
かったわ」
 今度はグッとワインを飲み込み、弥生は圭吾を、不確かな目つき
で見つめた。
「話したら、なんだかすっきりしちゃった。これでも、今までずい
ぶんつらかったのよ。鋭い針が、抜けず刺さらず心をチクチクと痛
めつづけていたの。それに耐えられたのは、圭吾、あなたがいてく
れたからよ」
「うれしいよ」
「でもね」弥生はグラスをそっとテーブルの上に置き、「それでも
まだ、警察の影に怯えなきゃいけない。そんなのは嫌なの。だから
ね、圭吾、私の身代わりになって。お願い」
 悠久か、あるいはほんの刹那か、沈黙があり、圭吾はおもむろに
ワインを口にすると、静かに、ゆっくりとうなずいた。
 抱擁。圭吾に絡み付くほの白い手。そっとほどき、無言で外の暗
闇へと溶け行く。寸毫の名残惜しさも見せずに閉まる重い扉。部屋
の中には黒い靄。弥生一人が薄明かり。

 キャンドルライトに照らし出される電話。弥生は受話器を手に取
って、慣れた手つきで番号を押した。呼出音が部屋の中にかすかに
漏れて、三度目、
「もしもし、幸秀? 弥生よ。大成功。一年間苦労したけど、これ
で幸秀と何の気兼ねもなく付き合えるんだもの、楽なものだと思わ
なきゃ。うん、私、今とっても幸せよ」






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