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第12回1000字小説バトル
Entry30

千文字聖書(特約)

作者 : スベスベマンジュウガニ
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文字数 : 998
 神なんていうと世間では全知全能唯我独尊武芸百般なイメージだ
が、実際は色々と制約が多い。例えば、神たる者は六六六年の任期
中に最低三回の奇跡の顕現が義務付けられているのだが、先任が鎌
倉時代に神風を吹かせてからこっち、つまり僕の代になってからは
全く奇跡を起こしていない。このままじゃリコールだ。たいへんだ。
僕は渋々街へ出た。

 公園のベンチ、一人ゲームボーイに興じている子供を見つけた。
「子供。お前に奇跡を起こしてやろう」
「おっさん誰? やばい人?」
「神である」
「へー。すっげ」
 全然すげくなさそうな口調であしらわれた。子供はゲームに夢中。
「お前の望みを叶えてやる。将来の夢などあるか?」
「傷痍軍人」
 勇ましい戦争に憧れる子供心はわかるが、傷痍軍人とはいささか
飛躍がある。
「だって、従軍したってゆう証拠が欲しいじゃん」
「なーる。いわゆる『大人はわかってくれない』みたいな?」
「違うけど。まあ、ばかな大人の考える子供の文脈としてはそんな
ところかな」
 子供は初めて液晶から僕の顔へと視線を移した。
「子供。その願い聞き受けた」
 電光石火で子供の右腕をとらえ、ビクトル逆十字固めにもってい
く。パキンと軽快な音がする。転げ回る子供。よほど嬉しかったか。
ここに奇跡がまたひとつ。
「うむ。神はこれを見て、良しとされた」
 しかし公安はそれを良しとせず、十月三十一日十七時八分、神は
身柄を拘束された。

 取り調べを受けた。
「名前は?」
 こわもての刑事が迫る。
「Y・H・W・Hです」
「なんて読むんだ」
「わかりません」
 小突かれた。
余罪が沢山あるということで、僕は刑に服さねばならないらしい。
十戒のひとつとして犯していないのに、不思議な話だ。
「何年ほど服役しますか?」
「そんなことはまだわからん」
 刑事が答える。
「いつから刑務所に入りますか?」
「もうすぐだよ。自業自得だ」
「刑務所では毎朝起床のラッパが鳴り響きますか?」
「鳴り響かねえよそんなもん」
 悪魔は得てして真実を語らない。つまりはラッパが鳴り響くとい
うこと。毎朝、毎朝。第七の看守が第七のラッパを吹き鳴らす投獄
七日目の朝、七人の天使がやってきて七つの鉢に盛られた神の怒り
を地上に注ぐのだろう。そこでようやくこの世界は僕のものとなり、
永遠となる。
 黙示録の成就に想いを馳せつつ、取調室の僕は甘辛いかつ丼をふ
はふは頬張った。口の中では、肉と卵とごはんとラッパのハーモニ
ー。






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