インディーズバトルマガジン QBOOKS

第12回1000字小説バトル
Entry33

星のお伽ばなし

作者 : 蛮人S
Website : http://www.geocities.co.jp/Technopolis/3057/
文字数 : 1000
「シリウスは、月と惑星を除けば夜空で一番明るい星です」
 この日、雪空の下プラネタリウムを訪れる酔狂な客は、髪の長い
娘が一人きりだった。スライド挿入。
「この青い星シリウス、赤いベテルギウス、そして白いプロキオン
を結ぶ形を、冬の大三角形と呼びます」
 さほど広くない上映室は、僕と彼女の教室のようだ。瞳に映る、
青い光がここからも見てとれる。神秘的な輝きだ。
 思い切って問いかけてみる。
「何か、リクエスト御座いますか?」
 娘はまっすぐ僕を見ると、思いがけない事を言うのだった。
「今晩、私を置いて頂けますか? この星で……どこにも行き場が
ないのです」

 部屋に女性を招くのは久しぶりだ。僕がコーヒーを入れようとす
ると、娘は素早く立ち上がり、いやに念入りに自分で作ってくれた。
 そして娘は、自分は二十億年の時を経てシリウスBから来た王女
なのだと真顔で言うのであった。笑いを抑え、頷いて見せる。
「あなたはお話を聞いてくれそうだったから……星に詳しそうだっ
たから……分かっていただけますね」
 この、僕に関して何か突拍子もない勘違いをしている奇矯な娘の、
しかし澄んだ瞳に僕はもう、魅入られていたのである。

(かつてシリウスBは、生命を育む美しい星でした)

 王女はお伽話を囁き続ける。

(精神文明が進んだ、心正しい人の国でした。
 これと言って資源はないけれど、ただ宝石だけは
 沢山採れたので国は豊かでした。
 ルビーとか、サファイアとか……)

 唇が塞がれる間だけ、囁きが途切れる。

(でもある年、赤い星が王国に野心を傾ける。
 彼らの策謀で私達は星を追われ、シリウスは
 生命を拒む星へ変わっていった……
 私達は想うところの星に向け宇宙へ散った。
 私が目指したのは、そう、この星の太陽。
 冬の夜空に明るく輝く、王家の守護神。
 二十億年、ただ
 まっすぐに
 この星を
 めざし……

 理由の分からぬ頭痛で目を覚ますと、もう昼前だった。いつの間
にか眠りに落ちていたらしい。
 隣にいる筈の娘は見当たらない。彼女とそのバッグは勿論、机に
置いた僕の財布、引き出しからは通帳、印鑑、ついでにタバコまで
も消えていた。
(なんて手際の良いお姫様だろう)
 コーヒーでも沸かそうと流しに立った時、昨夜のカップの皿に青
い小石を見つけた。
 大粒の、サファイアに似た石だった。
(まさか、ね?)
 手にとってかざすと、石はあの娘の瞳に似た、深い輝きでそっと
応えるのだった。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。