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第12回1000字小説バトル
Entry6

娘が連れて来た男

作者 : しょーじ
Website :
文字数 : 988
「お父さん、文恵さんを僕にください」
 うららかな日曜日、文恵が家に連れて来た青年は、そう言って丁
寧に頭を下げた。
 青年、寺田悟は、小ざっぱりとしたスーツ姿にきちんと整えた頭
髪、そしてなにより爽やかな顔つきと、颯爽とした身のこなしをし
ていたので、文恵の両親共にこの若者に好感を持ったのだった。
 父親である達夫は咳払いをひとつし、威厳を込めて尋ねた。
「君は仕事は何をしているのかね?」
 娘をやることはやぶさかでないのだが、念のため確認しておきた
い必須事項である。
 悟は快活に答えた。
「はい、今、失業中なんです」
 胸をそらし、堂々として、悪びれる様子は微塵もない。
 達夫はきょとんとした。あまりにも意外な答えだったからである。
いったい職を失った男が、結婚の許可を得に挨拶に来るものだろう
か。今、一人娘を手放さんとするこの父親には、それが理解できな
かった。
 横に座る妻の早苗としばし顔を見合わせた後、達夫は、悟の斜め
後ろで正座している我が子に訊ねた。
「文恵、お前は、その....いいのか...?」
 文恵は目を伏せ、薄い笑みを頬に浮かべあいまいに頷くだけであ
る。
「失業中ではありますが」
 悟が凛とした姿勢で声を張り上げた。
「文恵さんが働いてくれるって言うから大丈夫です!」
 スカッと言い切った。
 屈託のない、じつに朗らかな声色であった。その調子で悟はさら
に続ける。
「借金取りに追われる身ですが、文恵さんが貯金の500万円使っ
ていいって言ってくれてますし、いざとなったら風俗店でも働いて
くれるって言うんです。あとはお父さんから持参金を一千万円もも
らえれば全て解決するんです。だからぜひ文恵さんを僕に...」
 悟がそこまで言った時、達夫はドンとテーブルを叩き、やにわに
立ち上がった。
「君はうちの文恵を『金づる』としか見ていないのかっ!」
 部屋中に達夫の胴間声が響きわたった。彼の目は血走り、身体は
ぶるぶると震えている。今にも目の前の非常識、かつ無礼きわまり
ない男に掴みかかりそうな勢いである。端で見ている早苗は顔面蒼
白となり、若い二人に目で「謝りなさい」と懸命に合図を送った。
「そんな、お父さん、めっそうもない」
 悟は初めて動揺を見せると、正座したまま、ずいと身体の向きを
変え、仁王立ちの達夫を正視した。そして誠意あふれるまなざしで
訴えた。
「ちゃんと『性欲のはけ口』としても見てますとも!」






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