インディーズバトルマガジン QBOOKS

第12回1000字小説バトル
Entry8

英雄

作者 : 佐藤ゆーき
Website : http://www.d2.dion.ne.jp/~syuki
文字数 : 954
 僕は子供の頃から英雄に憧れていた。選ばれた人間になりたかっ
た。今とは違うエキサイティングな世界に放り込まれて冒険をして
みたかった。そして最後は世界中の人々から拍手を送られたかった。
 でも今の僕はつまらない現実の中で、つまらない毎日を過ごして
いる。二十四歳にもなって心のどこかで自分はいつかは英雄になれ
ると信じながら、現実から目を背け、今の自分がやりたいことも見
つからずにだらだらと生きていた。
 そんなある日の朝、僕は轟音と共に目が覚めた。あまりに凄い音
だったが、僕の部屋の中はいつも通りだったし、外も静かだったの
でそれは夢の中で聞いた音ではなかったのかと思った。僕は布団か
ら抜け出し思い切って窓を開けてみた。そこは瓦礫の山と化し、あ
ちこちで煙りが上がっている。
 次に僕はテレビをつけてみた。今にも崩れ落ちそうなスタジオで
いつもは冷静な美人キャスターがパニック寸前になりながら原稿を
読み上げている。
「先程世界各国が正体不明の軍隊から攻撃を受けました。トーキョ
ーの上空には空飛ぶ円盤が飛び交っています。総理ならびに政府関
係者は、この状況を救えるのはキョウト在住のサイトウタケシ氏し
かいないとの統一した見解を示し、タケシ氏には至急国会議事堂ま
で来ていただくように呼びかけを行っていますが、通信手段の断絶
のため今だコンタクトはとれていない模様です。サイトウタケシさ
ん、見ていましたらすぐに国会議事堂までおこし下さ・・・」
 そこで画面は真っ暗になった。ちなみにサイトウタケシというの
は僕のことだ。僕はついに英雄になれる。すぐに顔を洗って歯を磨
いて、一張羅のスーツに着替えて、外に出た。外には誰もいない。
駅まで辿り着いたが、やっぱり誰もいないし、電車が走っている気
配もない。
 僕は途方に暮れたが、僕は英雄だと自分に言い聞かせとにかく国
道を東京の方に向かって歩き出した。でもいくら歩いても車も通り
かからないし、誰にも会わない。何日も何日も。
 そして僕はついに力つきて倒れてしまった。僕の存在を誰にも知
られることもなく。こんなことならもっと体力をつけておくんだっ
た。サバイバルの勉強をしておくんだった。それが僕がこの世で最
後に考えたことだった。
 僕は英雄になりたかった。でも僕は英雄になる準備をしていなか
ったから世界は滅びてしまった。






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