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第13回1000字小説バトル
Entry1

道化娘にナンマイダ

作者 : 大森 柔
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文字数 : 971
「お父さんに私の気持ちは分からない」と言って姉は家を飛び出し
た。メロドラマさながらである。だとしたら父は姉を追いかけるべ
きだ。追いかけろ、追いかけるんだ父さん!  と僕は心の中で叫ん
だが、父は一点をみつめたまま酒をあおり続け、酔いつぶれた。
  やがて姉が戻ってきた。いまだメロドラマのヒロインを演じてい
る姉は「お父さんごめんなさい」と言って居間に飛び込んだ。しか
し姉を受けとめるべき父は、すでによだれを垂らしてつぶれている。
「お父さん、お父さん」と姉が父の肩を揺さぶった時、間の悪いこ
とに父はぷぅと屁をこいてしまった。姉は何も言わずに部屋へ閉じ
こもった。
  次の日から姉は父を無視しはじめた。
「おはよう」と父が笑顔をふりまく。姉は父の顔を見ない。「今日
も明るく元気に家族円満」と父が空元気を振りまく。姉は明らかに
父の存在を無視している。
  そんな日々が一週間ほど続いたろうか。とうとう父の堪忍袋の尾
が切れた。
「お前なんぞに父さんの気持ちが分かってたまるか!」
  と言って父は家を飛び出した。姉は追いかけなかった。当然であ
る。姉に父を追いかける道理はない。そこで僕が父を追いかけた。
「父さーん、父さーん」と僕が呼びかけると、父は立ち止まって振
り返った。
「なんでお前が追いかけてくるんだ?」と父は聞いた。
「僕もメロドラマに入り込みたかったんだよ」
「そうか、じゃあ今から家へ戻って姉さんにこう伝えておくれ。父
さんは今から川に飛び込むよ。本当は飛び込まないけど姉さんには
迫真の演技で父さんが自殺しようとしていることを伝えるんだよ、
分かったね」

「姉さん!  父さんが、父さんが!」と言って僕は家に飛び込んだ。
姉は僕の言うことを聞くなり裸足で家を飛び出した。僕もあとを追
った。
  父は橋の欄干に足をかけていた。
「お父さんやめて!  私が、私が悪かったのよ、ごめんなさい!」
  と言って姉は涙をほとばしらせながら父のほうへ走っていった。
父は姉の姿を見ると両手を広げて「いいんだ、もういいんだよ」と
言って姉に向かって走り出した。二人は橋の中央でしっかりと抱き
合った。それを見ていた僕は、なんて嘘っぽい光景なのだろう思い
ながら、可能な限り明るい声で最後のきめぜりふを二人に向かって
発した。
「二人とも、味噌汁が冷めちゃうぞ!」
  二人は明らかに作り物と分かるさわやかすぎる笑顔をよこした。






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