第13回1000字小説バトル
Entry10
雨はお昼を過ぎて強さを増した。夏に地球が干からびないように 必死に雨を降らせる雨雲。それをうまく吸収する事のできないアス ファト。行き場の無くなった雨水は低い所に集まって大きな泥の水 溜まりを作った。 「今日は行かない」 「どうして?」 「雨が降っているから。さっきニュースで行っていたけど記録的な 豪雨らしいよ」 「僕はもう待ち合わせ場所にきているんだよ」 「でも、行かない」 恭子は受話器を当てながら爪を切っていた。昔から雨が降ると爪を 切りたくなるのだ。昨日もおとといも雨が降っていたので昨日もお とといも爪を切った。 「痛い」 深く切りすぎた小指から血が滲み出た。 「どうしたの?」 「何でもない」 「ねえ」 「なあに」 「もし今日が雨じゃなかったら来てくれた?」 恭子はじんじん痛む小指の傷口の両端を押さえて血を出した。 「たぶん、行ってたと思う」 そう、といって電話は切れた。 小指は赤い血が滴る、なめると鉄の味がするはずだ、小指に紅い 線が引かれる、それを恭子はなめた。 本当は私は美穂の彼氏が好きなのだ。でも美穂は奇麗だから彼は 美保を好きになった。理由は奇麗だからだそれ以外何も無い、私だ って彼の顔が好きだからこんなにいても立ってもいられないぐらい 会いたいのだから。 恭子は今日の電話の相手を思い出した、イライラが雨の音に合わ せて募る。あー美穂の彼に会いたい。どこか遠くに行きたい。爪を 切りたい。ゆっくり眠りたい。外に出たい。笑いたい。歌いたい。 夢を見たい。何か飲みたい。大声を出したい。奇麗になりたい。誉 められたい。羨ましがられたい。尊敬されたい。泣きたい。甘えた い。走り出したい。逃げ出したい。お風呂に入りたい。あー小指が 痛い。 恭子はそのままベッドに入って天井に手のひらを透かした。まだ 小指は血を流している。雨はどんどん強さを増しているのが音で解 る。このまま記録的な豪雨になって道路を川にしてあの人が流れて 溺れてしまえばいいのに、そしたらきっと私はあの人を好きになれ ると恭子は思った。
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